人口減少地域の産業を守る「新しい担い手」としてのベトナム人材
地方経済を支える採用の形が変わっている
日本の地方では、人口減少や高齢化、若者の都市部への流出が進み、地域産業を支える人材の確保が難しくなっています。農業、漁業、食品加工、製造業、建設業、介護、宿泊・観光など、地域の暮らしや経済を支える分野でも、採用できないことが事業の継続に影響するケースが増えています。
以前は、地方企業の採用といえば「地元の若者を採用し、時間をかけて育てる」という考え方が中心でした。しかし、地域内だけで必要な人材を確保することが難しくなり、現在は国内の他地域だけでなく、海外を含めて採用の対象を広げる必要があります。
厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は約257万人となり、過去最多を更新しました。国籍別ではベトナムが60万5,906人で最も多く、外国人労働者全体の23.6%を占めています。ベトナム人材は、すでに日本のさまざまな産業で働く主要な外国人材の一つとなっています。
本稿では、北海道、東北、北陸の産業構造や採用状況を踏まえ、外国人材需要を整理します。
表中の星の数や地域ランキングは、公的統計による順位ではなく、各地域の産業特性、採用難の状況、外国人材が働いている分野などをもとにした実務上の相対評価です。
| 業種 | 人手不足度 | 外国人材需要 |
|---|---|---|
| 農業 | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 食品加工 | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 製造業 | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 介護 | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 建設 | ★★★★ | ★★★★★ |
| 宿泊・観光 | ★★★★ | ★★★★ |
人材不足という課題は共通していますが、必要とされる仕事や採用後の育成方法は地域によって異なります。そのため、外国人材の採用を検討する場合も、全国で同じ方法を採用するのではなく、地域の産業構造に合わせて考える必要があります。
北海道・東北・北陸で異なる外国人材需要
北海道―農業と食品産業を支える人材
北海道は、日本有数の食料供給地域です。農業、酪農、漁業、食品加工、観光など、広い土地と豊かな自然環境を生かした産業が地域経済を支えています。
一方、農業や食品関連の現場では、高齢化や後継者不足が進んでいます。仕事が一定期間に集中する農業や、安定した生産体制が必要な食品工場では、必要な時期に人材を確保できるかどうかが大きな課題になります。
| 分野 | 外国人材需要 |
|---|---|
| 農業 | ★★★★★ |
| 食品加工 | ★★★★★ |
| 介護 | ★★★★ |
| 宿泊・観光 | ★★★★ |
| 建設 | ★★★★ |
農業分野では、野菜の収穫、選別、農産物加工、農場管理の補助など、多くの工程で外国人材が働いています。じゃがいも、玉ねぎ、人参、酪農関連など、地域ごとの主要産品によって仕事内容や繁忙期も異なります。
食品産業では、水産加工、乳製品加工、冷凍食品などの分野で人材需要があります。単に作業人数を増やすだけではなく、衛生管理、品質基準、安全確認を理解し、決められた工程を継続して守れる人材を育成することが重要です。
東北―人口減少地域の産業を支える人材
東北地方では、人口減少、若者の流出、企業の後継者不足が同時に進んでいます。農業や食品産業だけでなく、製造業、介護、建設など、地域によって異なる分野で人材確保が課題になっています。
| 県 | 主な産業 | 外国人材需要 |
|---|---|---|
| 宮城 | 食品・製造・介護 | ★★★★★ |
| 福島 | 製造・農業・建設 | ★★★★★ |
| 岩手 | 食品・農業・製造 | ★★★★ |
| 山形 | 食品・機械 | ★★★★ |
| 秋田 | 農業・介護 | ★★★★ |
| 青森 | 農業・食品 | ★★★★ |
宮城や福島では、食品加工、電子部品、機械加工、検査など、製造関連の仕事で外国人材の需要が高まっています。これらの仕事では、入社直後からすべてを任せるのではなく、安全教育、作業手順、品質基準を段階的に伝える仕組みが必要です。
また、高齢化が進む地域では、介護施設、高齢者住宅、地域福祉を支える人材の確保も重要です。介護は作業手順だけで完結する仕事ではなく、利用者や職員とのコミュニケーションが欠かせません。そのため、採用時の日本語力だけで判断するのではなく、入社後も現場で使う言葉や表現を学べる環境が求められます。
北陸―ものづくり企業を支える技術人材
新潟、富山、石川、福井を含む北陸地方は、人口規模は大きくありませんが、工作機械、金属加工、電子部品、繊維、化学などの製造業が集積しています。
| 分野 | 外国人材需要 |
|---|---|
| 製造業 | ★★★★★ |
| 技能職 | ★★★★★ |
| 介護 | ★★★★ |
| 食品加工 | ★★★★ |
北陸企業では、精密加工、機械操作、品質管理、生産補助などの分野で外国人材が働いています。製造業では、設備や製品についての知識を覚えるまでに一定の時間が必要です。採用後に経験を積み、担当できる工程を増やしていくことで、長期的に現場を支える人材になる可能性があります。
また、学歴、実務経験、在留資格、担当業務の内容が合えば、CAD、機械設計、電気技術などの分野でベトナム人技術者を採用できる可能性もあります。ただし、国籍だけで適性を判断するのではなく、本人の経験や能力と、企業が求める条件を個別に確認することが前提になります。
地域別ランキングから考える採用戦略
北海道、東北、北陸では、それぞれ異なる産業で外国人材が必要とされています。以下は、地域の産業構造や採用状況を踏まえた、本稿における外国人材需要の相対評価です。
| 順位 | 地域 | 主な需要 | ベトナム人材需要 |
|---|---|---|---|
| 1 | 北海道 | 農業・食品 | ★★★★★ |
| 2 | 宮城 | 製造・介護 | ★★★★★ |
| 3 | 福島 | 製造・建設 | ★★★★★ |
| 4 | 新潟 | 製造・食品 | ★★★★ |
| 5 | 富山 | 機械・製造 | ★★★★★ |
| 6 | 石川 | 製造・観光 | ★★★★ |
| 7 | 岩手 | 農業・食品 | ★★★★ |
| 8 | 山形 | 食品・機械 | ★★★★ |
| 9 | 福井 | 製造 | ★★★★ |
| 10 | 青森 | 農業・食品 | ★★★★ |
このランキングから分かるのは、地方の外国人材需要を一つの市場として考えることは難しいということです。
北海道では、農業や食品加工の繁忙期に合わせた採用と配置が重要になります。東北では、農業や食品だけでなく、製造、介護、建設など複数の分野で人材需要が重なっています。北陸では、採用人数だけでなく、製造技術や機械操作を継続的に学べる人材を確保することが重要です。
外国人材を採用する場合も、求人を外国語に翻訳するだけでは十分ではありません。仕事内容、勤務場所、交通手段、必要な技術、日本語を使う場面、将来担当できる仕事まで整理したうえで募集する必要があります。
採用を地域定着につなげるために必要なこと
外国人材の採用は、地方企業の人材不足を緩和する一つの方法です。若い人材を採用し、現場で経験を積んでもらうことで、企業の年齢構成や技能継承を支えられる可能性もあります。
厚生労働省の2024年外国人雇用実態調査では、企業が外国人労働者を雇用する理由として、「労働力不足の解消・緩和」が69.0%で最も多くなっています。一方、雇用上の課題としては、「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」が43.9%、「在留資格申請等の事務負担が面倒・煩雑」が24.7%となっています。採用によって人員を補うだけでなく、雇用管理や職場内のコミュニケーションを整えることも必要です。
特に地方では、仕事以外の生活環境が定着に大きく影響します。公共交通機関が少ない地域では、通勤や買い物の手段をどのように確保するかを考えなければなりません。住宅、病院、銀行、行政手続きなどについても、本人が必要な情報を理解し、利用できる状態をつくる必要があります。
日本語教育も、試験のための学習だけでは十分ではありません。安全確認、作業報告、体調不良の相談、地域生活など、実際に必要となる場面に合わせて学べる仕組みが重要です。
さらに、長く働いてもらうためには、現在の仕事だけでなく、将来どのような役割を担当できるのかを示す必要があります。
- 入社
- 基本業務の習得
- 担当工程の拡大
- 後輩指導・リーダー業務
- 現場管理や専門業務
すべての人が同じ道を進むわけではありませんが、仕事を覚えた後の選択肢が見えることは、本人が将来を考える材料になります。企業にとっても、採用時から育成の段階を整理しておくことで、外国人材を一時的な補充ではなく、将来の技能継承を支える人材として育てやすくなります。
生活支援のすべてを企業だけで行うことは困難です。企業は仕事、教育、職場内の相談体制を整え、地方自治体や地域の支援機関は、生活情報、行政手続き、日本語学習、地域との接点を支える必要があります。政府も、外国人との共生社会に向けた中長期的な課題として、日本語教育、相談体制、生活支援などの環境整備を進めています。
制度の変化と地方外国人材市場のこれから
外国人材の受け入れをめぐる制度も変化しています。人手不足分野に対応する特定技能制度に加え、技能実習制度に代わる育成就労制度の準備が進められています。
育成就労制度は、一部を除き2027年4月1日に施行される予定です。制度の開始後は、外国人を一定期間受け入れるだけではなく、就労を通じて技能を育成し、特定技能への移行も見据えた人材育成が、これまで以上に重視されると考えられます。
| 政策・制度 | 地方企業との関係 |
|---|---|
| 特定技能制度 | 人手不足が深刻な分野での人材確保 |
| 育成就労制度 | 就労を通じた技能育成と特定技能への移行 |
| 日本語教育支援 | 仕事と地域生活に必要なコミュニケーション支援 |
| 地域共生政策 | 相談、行政手続き、生活情報などの環境整備 |
地方企業では、人材を採用できるかどうかだけでなく、採用後に技能を身につけ、地域で生活を続けられる環境を準備できるかどうかが重要になります。
以下は、現在の産業構造、人材不足の状況、各地域での採用動向を踏まえた、2030年に向けた本稿の見通しです。
| 分野 | 将来性 |
|---|---|
| 介護 | ★★★★★ |
| 農業 | ★★★★★ |
| 食品加工 | ★★★★★ |
| 製造技術 | ★★★★★ |
| 建設 | ★★★★ |
| 観光 | ★★★★ |
介護、農業、食品加工、製造技術は、地方の暮らしや産業を維持するために欠かせない分野です。建設や観光も、地域インフラの維持や交流人口の拡大に関わるため、一定の人材需要が続くと考えられます。
ただし、人材需要が高いからといって、採用が自動的に成功するわけではありません。仕事内容と在留資格の整合性、採用条件、教育体制、住居、交通、地域生活など、受け入れの条件を一つずつ整える必要があります。
外国人材が地域で活躍し続けられる環境へ
北海道、東北、北陸では、人口減少や人材不足の影響が、農業、食品、製造、介護、建設、観光などの地域産業に広がっています。その中で、ベトナム人材をはじめとする外国人材は、現場を支える重要な存在になっています。
しかし、外国人材を採用するだけで地方創生が実現するわけではありません。採用後に仕事を学べること、必要な日本語を身につけられること、安心して生活できること、将来の役割を考えられることが必要です。
これから地方企業に求められるのは、外国人を一時的な人手として受け入れることではなく、地域で働き、生活し、経験を積みながら活躍できる環境をつくることです。
外国人材が地域に定着し、技能を身につけ、次の人材を育てる立場になれば、企業の人材不足を補うだけでなく、地域産業の継続や技能継承にもつながります。外国人材との共生は、地方の課題をすべて解決する方法ではありませんが、地域の産業と暮らしを守るための重要な選択肢の一つです。