外国人材市場を知る 第9回| 外国人材が定着する企業の共通点|製造業・介護・ITの採用・育成事例

2026/08/17
外国人材が定着する企業の共通点と採用・育成事例

はじめに――採用した後に、何をするか

日本で働く外国人労働者が過去最多を更新するなか、外国人材の採用に取り組む企業も増えています。一方、採用後の受入れがうまくいかず、早期退職につながるケースもあります。

FirstStepにも、「採用した人が半年で退職した」「日本語での指示がうまく伝わらない」「本人が職場になじめず、周囲もどう対応すればよいか分からない」といった相談が寄せられています。

その一方で、外国人社員の定着率が90%以上となり、現場リーダーや管理職を任せられる人材が育っている企業もあります。こうした企業の取り組みを見ていくと、違いは採用方法だけではありません。入社前の説明、受入れ準備、教育、生活支援、評価、キャリア形成まで、一つの流れとして考えています。

本記事の事例、数値、ランキング、星による評価は、FirstStepが外国人材の採用・定着支援を通じて得た相談事例や現場経験をもとに整理した独自評価です。公的機関による統計上の順位ではありません。企業情報はプライバシーに配慮し、匿名で紹介しています。

1.定着している企業に見られる5つの取り組み

外国人社員が長く働いている企業では、採用条件だけでなく、入社後に安心して仕事を覚えられる環境づくりにも力を入れています。

以下の星は割合を示すものではありません。FirstStepが支援現場で確認してきた取り組みの共通度を、5段階で表したものです。

項目 共通度
採用前の丁寧な説明 ★★★★★
日本語教育 ★★★★★
生活支援 ★★★★★
キャリア制度 ★★★★★
定期面談 ★★★★★

採用前には、仕事内容、勤務時間、給与、夜勤の有無、職場のルールなどを具体的に伝えます。入社後は日本語や技術を教えるだけでなく、生活面の相談にも対応し、定期的に本人の状況を確認します。

また、評価基準や将来のキャリアを示し、何を身につければ次の役割に進めるのかを分かりやすくしています。採用人数だけを追うのではなく、入社した人が職場で役割を持ち、長く働ける状態をつくることに重点を置いているのです。

2.製造業――自動車部品メーカーの事例

製造業における外国人材の採用・育成事例

愛知県の自動車部品メーカーでは、若手人材の採用が難しく、技能継承も思うように進んでいませんでした。夜勤を担当する人員の不足も、現場の負担を大きくしていました。

項目 内容
業種 自動車部品製造
従業員 約300名
外国人社員 約60名
主な国籍 ベトナム・インドネシア

採用時には日本語面接と技術試験を行い、現在の能力だけでなく、仕事に対する姿勢や担当業務との適性も確認しました。

入社後は、日本語研修、5S教育、安全教育、技術研修を段階的に実施しています。社員寮とベトナム語の相談窓口も用意し、仕事以外の問題についても早めに相談できるようにしました。

経験を積んだ社員には、資格取得やリーダーを目指す機会があります。目の前の作業だけでなく、その先の役割まで見える仕組みです。

項目 導入前 導入後
離職率 約25% 約8%
技能資格取得者 少数 大幅増加
現場リーダー 0人 複数名

教育、生活支援、資格取得、昇進を別々に考えず、継続した仕組みとして整えたことで、外国人社員が現場に定着するようになりました。現在は、日本人社員と外国人社員による混成チームで生産改善活動を行っています。

3.介護業界――介護施設の事例

介護施設における外国人材の採用・育成事例

千葉県の介護施設では、慢性的な人手不足が続き、夜勤や若手職員の確保が課題となっていました。

介護の仕事では、利用者との会話だけでなく、介護記録や職員間の申し送りも必要です。日常会話ができても、現場で使う言葉が分からなければ、本人にも周囲にも負担がかかります。

そこで、この施設では日本語研修を毎週2時間実施しました。介護の現場で必要な表現を学びながら、介護技術の研修も並行して進めています。介護福祉士や日本語能力試験の取得も支援しています。

生活面では、住宅の紹介、行政手続きのサポート、必要に応じた病院への同行などを行いました。慣れない環境で起きた問題を本人だけに任せず、仕事を続けるうえでの不安を早めに解消するためです。

現在は、外国人スタッフが介護リーダーを務め、日本人職員と一緒にチームケアを行っています。利用者や家族からも、丁寧な対応について高い評価を受けています。

4.IT企業――システム開発会社の事例

IT企業における外国人エンジニアの採用・育成事例

東京都のシステム開発会社では、ベトナム、インド、台湾などからエンジニアを採用しています。対象となるのは、Java、Python、AI、クラウドなどの知識や経験を持つ人材です。

ただ、技術力が高ければ、そのままプロジェクトがうまく進むとは限りません。顧客とのやり取り、進捗報告、仕様の確認、チーム内の調整など、日本の開発現場で求められるコミュニケーションにも慣れる必要があります。

同社では、日本語研修とビジネスマナー教育に加え、プロジェクト管理を学ぶ機会を設けました。入社後はメンターがつき、技術面だけでなく、仕事の進め方や職場で困っていることについても相談できます。

経験を重ねた外国人エンジニアは、PM、チームリーダー、海外開発責任者として活躍しています。専門人材を採用するだけで終わらせず、担当できる役割を少しずつ広げてきた結果です。

5.食品製造業――食品メーカーの事例

埼玉県の食品メーカーでは、夜勤人員の不足や採用難に加え、定着率の低下も問題になっていました。

以前は、作業工程を日本語の説明だけで伝えることが多く、理解の違いが作業ミスにつながることもありました。教える人によって説明が異なり、新人教育に時間がかかるという課題もありました。

改善のために導入したのが、多言語マニュアルと写真付きの作業手順です。文章だけでは伝わりにくい作業の流れや注意点を、目で確認できるようにしました。

あわせて、ベトナム語通訳による支援と班長制度も整えています。仕事に慣れた外国人社員が、新しく入社した社員を支える側に回る仕組みです。

こうした見直しによって作業ミスが減り、定着率も向上しました。新人教育にかかる期間も短くなっています。本人に理解を求めるだけでなく、会社側が仕事の伝え方を変えたことが改善につながりました。

6.日本語、技術、キャリアを分けて考えない

今回取り上げた企業では、日本語教育だけを単独で行っているわけではありません。仕事内容に合わせて、日本語、技術、キャリアの三つを組み合わせています。

日本語教育で扱うのは、一般的な会話だけではありません。敬語、報告・連絡・相談、安全用語、作業指示など、実際の現場で使う表現を学びます。

技術教育では、OJTを通じて仕事を覚えながら、品質管理、改善活動、5Sなどへの理解も深めます。そのうえで、5年後、10年後にどのような役割を目指せるのかを伝えています。

一般社員として経験を積み、班長、リーダー、主任、管理職へ進む。こうした道筋が見えれば、現在の仕事が将来とどうつながるのかを考えやすくなります。

7.ベトナム人材が長く働く企業の特徴

FirstStepがベトナム人材の採用・定着を支援するなかで、長く働いているケースに共通して見られた要素を整理しました。

これは、ベトナム人全体の考え方を示す公的なランキングではありません。FirstStepが実際に支援した事例をもとにした相対評価です。

順位 特徴 評価
1位 昇進できる ★★★★★
2位 日本語教育がある ★★★★★
3位 上司との信頼関係がある ★★★★★
4位 生活支援がある ★★★★☆
5位 給与制度が明確である ★★★★☆

特に多く見られたのが、将来の役割を具体的に知りたいという声です。ただ昇進制度があるだけではなく、どのような能力や実績が必要なのか、本人に伝わっていることが大切です。

上司との関係も、仕事を続けるかどうかに影響します。困ったときに相談できるか、自分の仕事をきちんと見てもらえているか。制度だけでは補えない日々のコミュニケーションも、定着を支える要素になっています。

8.外国人社員の声から見えること

FirstStepが支援現場で外国人社員から聞いてきた声を整理すると、給与や待遇に加えて、職場の人間関係、仕事のやりがい、教育制度なども重視されていました。

以下の星は統計上の満足率ではなく、相談や面談で確認された内容をもとにした相対評価です。

項目 相対評価
職場の人間関係 ★★★★★
仕事のやりがい ★★★★★
教育制度 ★★★★☆
日本語学習支援 ★★★★☆
キャリアアップ ★★★★☆
給与・待遇 ★★★★☆

給与はもちろん大切です。しかし、今回整理した事例では、それだけで勤務先を選んでいるわけではありませんでした。

仕事を覚えられる環境があるか。職場で信頼関係を築けるか。数年後にどのような仕事を担当できるのか。こうした点も、同じ会社で働き続けるかどうかを考える材料になっています。

9.採用がうまくいかないときに見直すこと

外国人社員が早く退職した場合、日本語能力や本人の適応力だけが原因とは限りません。採用前の説明や入社後の教育、相談体制など、会社側の受入れ方を見直す必要があるケースもあります。

起きやすい問題 改善方法
採用前の説明不足 仕事内容や条件を具体的に伝える
入社後の教育不足 業務に合わせた研修を行う
相談相手がいない 相談窓口や担当者を決める
昇進制度が見えない キャリアパスと評価基準を示す
相互理解が不足している 職場全体で異文化理解を進める

たとえば、採用時に聞いていた仕事内容と実際の業務が違えば、不信感につながります。相談相手が決まっていなければ、小さな問題も放置されやすくなります。

退職の理由を本人だけに求めるのではなく、採用から配属までの流れに改善できる点がなかったかを確認することが必要です。

10.採用から育成までの5つのステップ

FirstStepの支援経験をもとに、ベトナム人材の採用から育成までの流れを五つの段階に整理しました。

すべての企業に同じ方法が当てはまるわけではありません。業種、仕事内容、企業規模、在留資格などに合わせて調整する必要があります。

ステップ 主な取り組み
STEP1 採用 技術確認、日本語確認、人物面と適性の確認
STEP2 受入れ 住居、生活支援、オリエンテーション
STEP3 教育 日本語、技術、安全、ビジネスマナー
STEP4 定着 面談、評価、昇給、資格取得支援
STEP5 育成 班長、リーダー、管理職、海外事業担当への育成

採用は、この流れの入口です。入社後の受入れ準備ができていなければ、本人が力を発揮する前に問題が起きてしまいます。

教育や評価の制度があっても、その先にどのような役割があるのか分からなければ、長期的なキャリアは描きにくいでしょう。採用、受入れ、教育、定着、育成を別々に考えず、一つの人材計画としてつなげることが大切です。

11.企業側に生まれる変化

外国人社員が能力を発揮できる環境を整えると、人材確保だけでなく、現場や組織にも変化が生まれます。

効果 内容
人材確保 採用難の緩和
生産性向上 技術力の向上、改善活動への参加
国際化 海外展開や多言語対応への活用
組織活性化 異なる視点を取り入れる機会
技術継承 若手人材への技能移転と育成

ただし、外国人材を採用すれば、自動的にこうした効果が得られるわけではありません。本人の経験や適性に合った仕事を任せ、必要な教育を行い、成果を適切に評価することが前提です。

外国人社員の受入れをきっかけに、マニュアルを見直したり、評価基準を分かりやすくしたりする企業もあります。その改善が、日本人社員を含む職場全体の働きやすさにつながることもあります。

12.人手不足対策から、人材を育てる採用へ

外国人採用を、短期的な人手不足対策だけで考えることは難しくなっています。採用した人材が技術を身につけ、日本語力を高め、現場の中心を担えるようになるまでには時間がかかります。

今回紹介した企業では、外国人社員を一時的な労働力として扱うのではなく、将来の班長、リーダー、管理職、海外事業担当として育てていました。そのために、採用前の説明、入社後の教育、生活支援、面談、評価、キャリア形成を一つの仕組みとして整えています。

外国人社員が働きやすい環境を考えることは、特別な制度を増やすことだけではありません。仕事内容や評価基準を明確にし、困ったときに相談できる職場をつくることでもあります。

まとめ――採用後の仕組みが定着を左右する

外国人材の採用と定着に成果が見られた企業には、採用前の丁寧な説明、入社後の教育、生活支援、キャリア形成、分かりやすい評価制度がありました。

採用した人に長く働いてもらうには、本人に適応を求めるだけでは十分ではありません。会社側も、仕事の伝え方や育成方法、相談体制を見直す必要があります。

採用をゴールにせず、その後の定着と育成まで考える。外国人材と企業がともに成長するための出発点は、そこにあります。

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