はじめに――日本企業で存在感を高めるベトナム人材
日本で働くベトナム人は、製造、IT、介護、建設、物流、食品加工など、さまざまな分野で活躍しています。採用の目的も、目の前の人手不足を補うことだけではなくなりました。技術者や現場リーダーなど、将来を担う人材として迎えたいと考える企業が増えています。
厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は2,571,037人です。そのうちベトナム人は605,906人で、全体の23.6%を占めています。国籍別では最も多く、日本の職場を支える大きな存在になっていることが分かります。
では、なぜベトナム人材がこれほど注目されているのでしょうか。本記事では、ベトナムの人口や教育環境、日本語学習の状況、企業が評価している点を整理しながら、採用後の育成や定着についても考えていきます。
※記事内の「需要」「評価」「重要度」「将来性」は、公的機関によるランキングではありません。求人動向や企業からの相談、採用後の活躍状況など、FirstStepが採用支援の現場で得た経験をもとに総合的に整理したものです。
1.若い世代が支えるベトナムの労働市場
ベトナムは人口約1億人、平均年齢約33歳の国です。20代から30代の層が厚く、現在も若い世代が労働市場の中心を担っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 人口 | 約1億人 |
| 平均年齢 | 約33歳 |
| 首都 | ハノイ |
| 最大都市 | ホーチミン市 |
| GDP成長率 | アジアでも高い水準 |
| 大学進学者数 | 年々増加 |
| 日本語学習者数 | 世界トップクラス |
日本では65歳以上が人口の約3割を占め、平均年齢は約49歳です。両国を比べると、年齢構成には大きな違いがあります。
| 国 | 平均年齢 | 労働力の将来性 |
|---|---|---|
| 日本 | 約49歳 | ★★☆☆☆ |
| ベトナム | 約33歳 | ★★★★★ |
この若い人口構成は、ベトナム人材市場の大きな強みです。ただ、今の状態がそのまま続くわけではありません。ベトナムでも出生率の低下と高齢化が進んでおり、世界銀行は2035年ごろに高齢社会へ移行すると予測しています。
若い人材が豊富な今は、日本企業にとって採用の機会であると同時に、将来を見据えて人材を育てる時期でもあります。短期的な労働力としてではなく、経験を積みながら専門性を高めていく人材として迎えられるかが、今後はより重要になるでしょう。
2.ベトナムで広がる日本語教育
ベトナムでは、大学、日本語学校、職業訓練校、日系企業の研修センターなどで日本語が学ばれています。国際交流基金の2024年度調査によると、国内の日本語学習者は164,495人でした。
学ぶ目的は、日本への留学、日本企業への就職、専門技術の習得など、人によって異なります。日本語教育の広がりは、日本企業で働くことを将来の選択肢として考える人が増える土台にもなっています。
FirstStepが採用支援を行う際、日本語能力と仕事の関係について、おおよそ次のような目安を設けています。
| レベル | 活躍できる分野 |
|---|---|
| N4 | 食品・物流・製造 |
| N3 | 製造・建設・介護 |
| N2 | 技術・営業・管理 |
| N1 | 通訳・マネジメント・海外事業 |
実際の求人では、N3以上を一つの目安とする企業が多く見られます。ただし、JLPTの級だけで、仕事で必要な日本語力のすべてが分かるわけではありません。同じ級でも、会話、聞き取り、読み書き、専門用語への理解には差があります。
現場作業が中心の仕事と、顧客対応や社内調整を行う仕事では、必要な日本語も違います。採用時には資格の有無だけでなく、実際の業務場面でどの程度コミュニケーションを取れるかまで確認したほうが、入社後のミスマッチを減らせます。
3.採用現場で評価されている5つの点
理工系の知識を持つ人材がいる
ベトナムでは工学教育が盛んで、機械工学、電気電子工学、情報工学、建築、自動化などを学ぶ学生がいます。これらの分野は、日本の製造、建設、IT企業が求める専門領域とも重なります。
もちろん、専攻名だけで実務能力を判断することはできません。学校で何を学んだのか、どの設備やソフトウェアを扱った経験があるのかまで確認して、実際の仕事内容と照らし合わせることが大切です。
入社後も学び続ける姿勢
FirstStepが接してきた候補者の中には、日本語と並行して技術資格、CAD、ITなどを学んでいる人がいます。採用した企業から「新しい仕事を覚えるのが早かった」と聞くこともあります。
こうした姿勢は、国籍だけで決まるものではありません。面接では、これまで何を学んできたのか、入社後にどのような技術を身につけたいのかを聞くことで、本人の考えを具体的に確認できます。
日本の技術や企業への関心
アニメや漫画、食文化をきっかけに日本へ関心を持つ人もいれば、技術力やものづくりに魅力を感じ、日本企業への就職を目指す人もいます。
JETROがハノイとホーチミンの30歳未満のDX人材300人を対象に行った調査でも、日本や日本企業に対して、技術や品質などの面で魅力を感じている回答が見られました。
ただ、「日本が好き」という気持ちだけで職場に適応できるとは限りません。仕事内容、給与、評価方法、生活環境などを採用前に伝え、本人が想像している働き方との違いを確認しておく必要があります。
日系企業で働いた経験
ベトナムには2,000社を超える日系企業が進出しています。そのため、5S、改善活動、品質管理、報告・連絡・相談といった仕事の進め方を経験した人材も増えています。
こうした経験があれば、日本で働き始める際にも仕事の流れを理解しやすい場合があります。それでも、企業ごとにルールや考え方は違います。経験者だから説明が不要と考えず、自社の業務や評価基準を改めて共有することが欠かせません。
日本での長期的なキャリア
以前は、数年間働いてから帰国するという考え方が一般的でした。現在では、日本でキャリアアップしたい、技術者になりたい、将来は管理職を目指したいと考える人も増えています。
将来の希望は、本人の生活状況や家族、待遇、働く環境によって変わります。採用時に一度確認して終わるのではなく、入社後も定期的に話し合い、本人が目指す方向と企業が期待する役割をすり合わせていくことが必要です。
4.業種別に見る需要と評価
FirstStepが採用支援の現場で得た情報を整理すると、業種別の需要と評価は次のようになります。
「需要」は、求人や採用相談の多さ、人材不足の状況をもとにした評価です。「評価」は、専門性、業務との相性、採用後の育成状況、企業からの声などを踏まえて整理しています。
| 業種 | 需要 | 評価 |
|---|---|---|
| 製造業 | ★★★★★ | ★★★★★ |
| IT | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 介護 | ★★★★★ | ★★★★☆ |
| 建設 | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 物流 | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
| 食品製造 | ★★★★☆ | ★★★★★ |
| 農業 | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
| 宿泊・観光 | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
需要や評価が高い業種でも、誰もが同じように仕事に合うわけではありません。本人の経験、日本語力、資格と、任せる仕事が合っているかを確認することが前提です。
また、外国人が担当できる業務は在留資格によって異なります。採用を進める前に、予定している仕事内容が制度上認められているかを確認しておく必要があります。
参考資料:
出入国在留管理庁「在留資格一覧表」
5.日本企業が求める人材像
製造業では、CAD設計、CNC加工、品質管理、生産技術、設備保全などの知識や経験を持つ人材が求められています。現場で作業するだけでなく、経験を積んだ後に工程改善や品質向上を担うことを期待する企業もあります。
IT分野では、システム開発、AI、Web開発、クラウド、DX推進などが主な領域です。技術力に加えて、相手の要望を理解する力や、チームで仕事を進めるためのコミュニケーションも必要です。
介護分野では、特定技能人材や介護福祉士に加え、将来のリーダー候補も期待されています。建設分野では、電気工事、配管、施工管理補助、測量など、専門性を生かせる仕事があります。
FirstStepが採用支援の現場で整理した、企業が重視する項目は次のとおりです。
| 評価項目 | 重要度 |
|---|---|
| 学習意欲 | ★★★★★ |
| 責任感 | ★★★★★ |
| 日本語能力 | ★★★★☆ |
| コミュニケーション能力 | ★★★★☆ |
| 技術力 | ★★★★☆ |
| 協調性 | ★★★★☆ |
採用では、技術や資格だけでなく、「長く一緒に働けるか」も見られています。ただし、長く働ける環境をつくるのは本人だけの責任ではありません。企業側も、担当する仕事や待遇、評価方法、将来任せたい役割を具体的に示す必要があります。
6.採用後の活躍を支える企業の取り組み
採用した人材が職場に定着し、力を発揮できるかどうかは、入社前後の受け入れ方にも左右されます。
採用前には、担当する仕事を具体的に説明し、必要な日本語力を確認します。本人が希望するキャリアと、企業が任せたい仕事に大きなずれがないかも、この段階で話しておきたい点です。
入社後は、OJT、日本語教育、生活支援、定期面談などを組み合わせます。住居や行政手続き、医療など、仕事以外の不安が職場での集中力に影響することもあります。相談できる担当者がいるだけでも、本人の安心感は変わります。
その後の定着を考えるなら、昇給制度、資格取得支援、リーダー育成、家族帯同への支援も重要です。何を身につければ次の役割に進めるのか、どのように評価されるのかが見えれば、働く側も将来を描きやすくなります。
業務や評価、育成方法を分かりやすく整えることは、外国人社員だけに向けた特別な対応ではありません。結果として、日本人社員を含めた職場全体の働きやすさを見直すきっかけにもなります。
参考資料:
厚生労働省「外国人雇用対策」
7.2035年に向けて注目される高度人材
AIやデジタル技術の普及、製造現場の自動化、高齢化に伴い、日本企業が求める専門性も変わっていくと考えられます。
現在の求人動向とFirstStepの採用支援経験をもとに、2035年に向けて需要が増えると予測している職種を整理しました。
| 職種 | 将来性 |
|---|---|
| AIエンジニア | ★★★★★ |
| 半導体技術者 | ★★★★★ |
| CAD設計者 | ★★★★★ |
| DX推進担当 | ★★★★★ |
| 生産技術者 | ★★★★★ |
| 品質保証 | ★★★★☆ |
| 介護リーダー | ★★★★☆ |
これは2035年の雇用状況を断定するものではありません。技術の進歩、制度、企業の投資状況によって、実際の需要は変わります。
それでも、専門知識に加えて、新しい技術を学ぶ力、現場の課題に気づく力、周囲と協力して改善を進める力が求められる流れは続くと見られます。企業が将来必要とする人材を考える際には、今ある能力だけでなく、入社後にどこまで成長できるかも見ていく必要があります。
8.採用前に考えておきたい課題
ベトナム人材の採用には多くの可能性がありますが、実際に働き始めると、言葉や生活、キャリアについて課題が生じることもあります。
| 課題 | 対応策 |
|---|---|
| 日本語力の個人差 | 継続的な日本語教育 |
| 文化・価値観の違い | 異文化理解研修 |
| 生活面の不安 | 住宅・行政手続き支援 |
| キャリア形成 | 昇進・資格取得制度の整備 |
日本語力の差を、本人の努力だけで解決しようとするのは現実的ではありません。職場で使う言葉や専門用語を学べる機会を設け、分からないことを聞きやすい雰囲気をつくることも企業側の役割です。
また、仕事上の問題をすべて「文化の違い」と考えてしまうと、指示の出し方や役割分担、評価基準の曖昧さを見落としてしまいます。何が伝わっていないのか、どこで認識がずれたのかを一つずつ確認するほうが、現実的な改善につながります。
生活とキャリアの両面を支えられる企業では、社員も安心して仕事に向き合いやすくなります。支援制度を設けるだけでなく、本人が実際に利用できているかを確認するところまでが受け入れの一部です。
9.「海外人材」から企業を支える人材へ
これからの採用では、「外国人だから採用する」のではなく、企業の将来を担う一人の社員として迎える視点が求められます。
ベトナム人材の中には、経験を積み、現場リーダー、生産管理責任者、海外事業担当、技術開発、マネジメントへと仕事の幅を広げている人もいます。ただし、採用すれば自然にそこまで成長するわけではありません。
本人の適性と仕事が合っていること、必要な教育を受けられること、努力や成果が適切に評価されること、次に目指す役割が見えること。こうした条件がそろって初めて、長期的な成長につながります。
まとめ――採用から育成、定着までを一つの流れで考える
ベトナム人材が日本企業から評価されている背景には、若い人口構造、理工系教育、日本語学習の広がり、日系企業で働いた経験、長期的なキャリアを考える人材の存在があります。こうした要素が、日本企業の採用ニーズと重なる場面は少なくありません。
その一方で、国籍だけを見て能力や定着を判断することはできません。専門性、日本語力、本人の希望、担当する仕事、企業の育成環境が合っているかを、一人ひとり確認する必要があります。
大切なのは、採用をゴールにしないことです。「採用する」「育てる」「定着し、力を発揮してもらう」という流れを一つの人材戦略として考える。その環境が整えば、ベトナム人材は現場を補う存在にとどまらず、企業の成長をともに支えるパートナーになり得ます。