はじめに 2035年、日本の外国人材市場は大きく変わる
この10年間、日本の外国人材を取り巻く環境は大きく変化してきました。特定技能制度の拡大に加え、技能実習制度から育成就労制度への移行も進み、外国人材を単に一定期間働く人材として受け入れるだけではなく、日本で経験を積み、成長し、より長く活躍できる環境を整える方向へ制度そのものが動いています。
実際、日本で働く外国人はすでに大きく増えています。厚生労働省によると、2025年10月末の外国人労働者数は257万1,037人となり、過去最多を更新しました。前年からの増加率も11.7%に達しています。特に「専門的・技術的分野の在留資格」は86万5,588人となり、前年比20.4%増と高い伸びを示しています。
一方、日本では生産年齢人口の減少が続きます。企業が必要とする人材を国内だけで確保することが難しくなる中、外国人材は今後さらに重要な存在になると考えられます。
では、その先にある2035年の外国人材市場はどのような姿になっているのでしょうか。
本稿では、現在の統計や制度の変化、人材市場の動向、そして実際の採用支援の現場で得てきた経験をもとに、約10年後の姿を考えてみます。
※本稿に掲載する2035年の数値、構成比、重要度などは、現在の統計・制度動向・人材市場の変化および実務経験を踏まえた独自予測です。
1. 2035年の日本社会――人材確保はより大きな経営課題へ
日本では少子高齢化が続き、生産年齢人口は今後も減少すると予測されています。
この変化は、単に「働く人が減る」という問題だけではありません。地域や業界によって差はあるものの、採用したい企業の数に対して働き手が十分に集まらない状況が、さらに広い分野で起こる可能性があります。
特に、人の力が事業の継続に直結する製造、建設、介護、物流、農業などでは、人材確保そのものが経営の重要課題になります。同時に、半導体やIT・DXのように成長が期待される分野でも、事業拡大に必要な専門人材の確保が課題になるでしょう。
2035年に人材需要が高まると予測する分野
| 業界 | 2035年の需要予測 |
|---|---|
| 介護 | ★★★★★ |
| 製造業 | ★★★★★ |
| 半導体・電子 | ★★★★★ |
| IT・DX | ★★★★★ |
| 物流 | ★★★★★ |
| 建設 | ★★★★★ |
| 農業 | ★★★★☆ |
| 宿泊・観光 | ★★★★☆ |
ここで重要なのは、すべての業界が同じ理由で人材不足になるわけではないということです。高齢化によって需要が増える分野もあれば、産業成長によって新しい人材が必要になる分野もあります。
2035年に向けて、企業は「欠員が出てから採用する」のではなく、中長期の事業計画と人材計画を一体で考える必要がさらに高まっていくと予測します。
2. 外国人材は300万人時代へ
2025年10月末時点で、日本の外国人労働者はすでに約257万人です。ベトナム、中国、フィリピンをはじめ、多くの国の人材が日本企業で働いています。
この増加ペースを考えると、「外国人労働者300万人」は2035年だけを象徴する数字というより、その途中で通過する一つの節目になる可能性があります。
さらに将来を考えると、重要なのは人数だけではありません。
特定技能、育成就労、技術・人文知識・国際業務、高度専門職など、異なる制度を通じて外国人材が日本で働き、それぞれの仕事やキャリアに応じた在留資格を活用する構造が広がっていくと考えられます。
2035年の外国人材構成(独自予測)
| 在留資格 | 割合 |
|---|---|
| 特定技能 | 40% |
| 育成就労 | 20% |
| 技術・人文知識・国際業務 | 25% |
| 高度専門職 | 10% |
| その他 | 5% |
この構成比は将来を確定的に示すものではありません。しかし、現在進んでいる技能実習から育成就労への制度転換、特定技能の拡大、そして専門的・技術的分野の外国人労働者の増加を見ると、外国人材の受け入れ方が多様化していく方向はすでに見え始めています。
企業側にも、単一の在留資格だけを見るのではなく、「どの仕事を、どのような人材に、どのようなキャリアを想定して任せるのか」という視点が必要になります。
3. ベトナム人材の存在感は今後も続く
現在、日本で働く外国人の中で最も多い国籍はベトナムです。
2025年10月末時点でベトナム人労働者は60万5,906人。外国人労働者全体の23.6%を占めています。
すでに日本の多くの地域、企業、業界でベトナム人材が働いていることを考えると、2035年に向けてもベトナムが日本企業にとって重要な人材供給国の一つであり続ける可能性は高いと考えています。
実際の人材支援の現場では、製造や介護だけでなく、設計、技術、ITなど、より専門性を求める求人について相談を受ける機会もあります。
今後、特に期待される分野としては、次のような領域を想定しています。
- 半導体
- AI
- ソフトウェア
- CAD設計
- 生産技術
- 品質保証
- 介護
期待される職種(独自予測)
| 職種 | 将来性 |
|---|---|
| AIエンジニア | ★★★★★ |
| 半導体技術者 | ★★★★★ |
| CAD設計 | ★★★★★ |
| 設備保全 | ★★★★★ |
| 介護リーダー | ★★★★★ |
| 海外事業担当 | ★★★★★ |
もちろん、国籍だけで適性を判断することはできません。採用で重要なのは、企業が求める条件と本人の能力・経験・希望が合っているかどうかです。
そのうえで、すでに大きな人材基盤が形成されているベトナムと日本の関係は、今後「人を送り出す国と受け入れる国」という関係から、より多様なキャリアを共につくる関係へ変わっていく可能性があります。
4. 外国人採用は「人数」だけでなく「定着・成長」へ
これまで人手不足が深刻な現場では、「何人採用できるか」が重要な課題になることが少なくありませんでした。
2035年になっても人数の重要性がなくなるわけではありません。しかし、人材を採用できても短期間で離職が続けば、企業の人材問題は解決しません。
そのため採用後の定着、教育、キャリア形成まで含めて考える企業がさらに増えていくと予測します。
企業が重視する項目(独自予測)
| 項目 | 重要度 |
|---|---|
| 専門技術 | ★★★★★ |
| 日本語能力 | ★★★★★ |
| 協調性 | ★★★★★ |
| リーダーシップ | ★★★★☆ |
| 課題解決力 | ★★★★☆ |
OECDも、日本が外国人材を受け入れるうえでは、採用だけでなく定着が重要な課題であることを指摘しています。一方、日本を選んだ高度外国人材には長期滞在する人も多く、「技術・人文知識・国際業務」に相当する人材では、約半数が入国から5年後も日本に滞在しています。ベトナム人については、2017年に入国した同カテゴリーの人材で5年後の滞在率が77.6%だったという分析もあります。
外国人採用は、
採用する
↓
教育する
↓
定着する
↓
成長する
という一連の人材戦略として考える時代に向かっているのではないでしょうか。
5. 「選ばれる企業」が採用競争に強くなる
外国人材の採用競争は、日本企業同士だけで完結するものではありません。
韓国、台湾、シンガポール、ドイツ、カナダなど、多くの国や地域も国外から人材を受け入れています。
働く側から見れば、選択肢は「日本企業A社かB社か」だけではありません。
どの国で働くのか。
どの企業で働くのか。
そこでどのようなキャリアを築けるのか。
こうした比較が、これまで以上に重要になります。
日本は外国人材を受け入れる制度面では多くのルートを整備してきました。一方、OECDは、高度外国人材を獲得するうえで、日本の相対的な賃金水準、転職のしにくさ、日本語能力への高い要求などが課題になると指摘しています。特に「技術・人文知識・国際業務」に相当する外国人材への調査では、38%が低い賃金を問題として挙げています。
制度を用意すれば人材が自然に日本を選ぶ、とは限りません。
2035年に採用競争力を持つ企業には、次のような条件がより重要になると考えます。
- 公平で分かりやすい評価制度
- 将来を描けるキャリアパス
- 日本語学習の支援
- 資格取得の支援
- 外国人と日本人が共に働きやすい職場づくり
- 必要に応じた家族・生活面への支援
企業が外国人を「選ぶ」だけではなく、企業自身も人材から比較され、選ばれる。
この変化は、2035年の外国人採用を考えるうえで最も大きなポイントの一つになるでしょう。
6. DX・AI時代に求められる外国人材
2035年には、現在よりさらにAI、ロボット、自動化技術が企業活動に組み込まれていると考えられます。
ただし、技術の普及をそのまま「人が不要になる」と考えるのは単純すぎます。
実際の企業では、自動化できる仕事と、人が判断・設計・改善しなければならない仕事が並存します。新しい技術を導入するほど、それを設計する人、運用する人、改善する人、現場と技術をつなぐ人が必要になる場面も出てきます。
そのため、2035年に向けて外国人材についても、単純な労働力だけではなく、より専門的な技術や知識を持つ人材への需要が高まると予測します。
今後伸びる分野(独自予測)
| 分野 | 成長予測 |
|---|---|
| AI | ★★★★★ |
| DX | ★★★★★ |
| 半導体 | ★★★★★ |
| ロボット | ★★★★★ |
| データ分析 | ★★★★★ |
特に製造業では、現場経験とデジタル技術の両方を理解する人材の価値が高まる可能性があります。
外国人材の役割も、「人手不足を埋める」だけではなく、新しい技術や事業を支える専門人材へと広がっていくでしょう。
7. 「働く外国人」から地域で暮らす人へ
外国人材が日本に長く滞在するようになれば、企業の中だけを考えて受け入れ制度を整えることはできません。
仕事が終われば、外国人社員も地域で生活する一人の住民です。
住居を探し、病院へ行き、子どもが学校に通い、災害が起きれば地域の避難所を利用します。
そのため2035年に向けて、企業だけでは解決できない課題も増えていくでしょう。
必要になるのは、
- 日本語教育
- 医療・生活情報へのアクセス
- 子どもの教育
- 地域交流
- 防災情報
- 生活相談
など、仕事と生活をつなぐ支援です。
外国人材の受け入れは「企業の採用問題」だけではなく、企業、自治体、教育機関、支援機関、地域社会が関わるテーマになっていきます。
外国人社員が安心して暮らせる環境は、その人自身だけのためではありません。結果として企業の定着支援にもつながり、長期的に働きやすい環境をつくる一つの条件になります。
8. 外国人社員のキャリアも変わる
技能実習制度では、一定期間日本で技能を身につけ、その後帰国するという制度設計が基本でした。
しかし外国人材の働き方が多様化し、日本で長く働く人が増えれば、企業側にもその先のキャリアを考える必要が出てきます。
2035年には、企業によっては次のようなキャリアが珍しくなくなっているかもしれません。
一般社員
↓
班長
↓
リーダー
↓
管理職
↓
海外拠点責任者
すべての外国人社員が管理職を目指す必要はありませんし、この流れがすべての企業に当てはまるわけでもありません。
重要なのは、「外国人だから現場担当」という固定した役割ではなく、本人の能力、経験、適性に応じた選択肢を用意することです。
OECDの調査でも、日本を選んだ高度外国人材には長期的な滞在を希望する人が少なくありません。外国人社員が長期的に働く可能性が高まれば、企業にとっても採用時点から数年後、10年後の役割まで考える意味が大きくなります。
外国人社員が現場の重要な戦力になるだけではなく、将来のリーダー、技術責任者、海外事業をつなぐ人材へ成長する。
そのような事例は、今後さらに増えていくと考えています。
9. 企業が今から準備すべきこと
2035年の変化は、2035年になってから対応すればよいものではありません。
人材の採用、育成、定着には時間がかかります。特に将来のリーダーを育てるのであれば、数年単位で考える必要があります。
今から準備できることは、大きく四つあります。
① 採用戦略
必要になってから一人ずつ採用するだけではなく、事業計画と合わせた長期的な人材計画を考えます。
採用国についても、一つの国だけに依存するのではなく、職種や必要な能力に応じて選択肢を持つことが重要です。
また、人材から企業が選ばれることを考えれば、求人票だけではなく、仕事内容、働き方、キャリア、企業文化を分かりやすく伝える採用ブランディングも必要になります。
② 教育
日本語だけでなく、仕事に必要な専門知識、DX、マネジメント、リーダー教育など、入社後の成長を支える仕組みを考えます。
「採用時に完成された人材を探す」だけではなく、「採用した人材が企業の中でどう成長できるか」という視点も重要になります。
③ 定着
定期的な面談、キャリア支援、職場内コミュニケーション、生活面での相談など、離職してから原因を考えるのではなく、働いている段階から状況を把握する仕組みが必要です。
特に外国人社員の場合、仕事上の問題と生活上の問題が互いに影響するケースもあります。
④ 共生
外国人社員だけに日本の働き方を学んでもらうだけでは、長期的な共生は難しいでしょう。
受け入れる日本人社員側にも、文化やコミュニケーションの違いを理解する機会が必要です。
外国人社員だけが職場に合わせるのではなく、双方が働きやすい環境をつくる。
この考え方が、2035年の人材マネジメントではさらに重要になっていくと予測します。
10. 2035年の外国人材市場予測
ここまでの変化を整理すると、2025年から2035年にかけて、外国人採用の考え方そのものが変わっていくと考えられます。
| 項目 | 2025年 | 2035年予測 |
|---|---|---|
| 外国人材の役割 | 労働力確保 | 人材戦略を支える存在 |
| 採用基準 | 日本語・経験 | 専門性・適性・成長可能性 |
| 企業の課題 | 採用 | 採用・育成・定着 |
| 外国人社員 | 現場中心 | 現場から専門職・リーダーまで多様化 |
| 企業競争 | 採用競争 | 「選ばれる企業」になる競争 |
これは、外国人材が日本人材に置き換わるという話ではありません。
人口構造、産業構造、技術、在留制度が変化する中で、日本人と外国人を分けて考えるだけでは企業の人材戦略が成り立ちにくくなるということです。
必要な仕事に対して、必要な能力を持つ人を採用し、その人が力を発揮できる環境をつくる。
2035年には、より多くの企業にとってそれが自然な考え方になっているのではないでしょうか。
シリーズ総括 外国人材は「日本企業の未来を共につくるパートナー」
本シリーズでは、全国の外国人材市場、都道府県別の需要、業種別の動向、ベトナム人材、そして実際の採用事例まで、さまざまな角度から外国人採用について考えてきました。
そこから見えてくるのは、外国人材を単に「人手不足を補う存在」として見るだけでは、これからの採用市場を十分に捉えられないということです。
現在、日本で働く外国人はすでに257万人を超え、その中でベトナム人材は60万人を超えています。
実際の採用支援の現場でも、製造、技術、IT、介護など、企業が外国人材に求める役割は少しずつ広がっています。
今後は「何人採用できるか」だけでなく、
どのような人材と出会うか。
どのように育てるか。
どのように長く活躍してもらうか。
という視点がさらに重要になります。
同時に、日本企業自身にも変化が求められます。
「採用する企業」から、
「育てる企業」へ。
そして、「人材から選ばれる企業」へ。
外国人材の市場が拡大すれば、企業が選べる人材が無限に増えるわけではありません。むしろ国や企業を越えた人材獲得競争が強まれば、働く側の選択肢も増えていきます。
2035年の日本で競争力を維持する企業とは、外国人材を特別な存在として切り離すのではなく、日本人社員と同じように一人の人材として育成し、それぞれが能力を発揮できる組織をつくった企業なのではないでしょうか。
外国人材を採用すること自体がゴールではありません。
企業と人材が互いに選び、共に成長できる関係をつくること。
それが、2035年に向けた外国人採用の一つの姿だと考えています。
参考資料
-
厚生労働省
「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点) -
OECD
Recruiting Immigrant Workers: Japan 2024 -
国立社会保障・人口問題研究所
日本の将来推計人口(令和5年推計) -
独立行政法人国際協力機構(JICA)
2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究 -
出入国在留管理庁
育成就労制度