外国人材市場を知る 第3回| 人手不足を超えて、愛知県で育てるベトナム技術人材

2026/08/01
愛知県の製造業で育つベトナム技術人材

自動車産業を支える未来の技術者

日本最大級のものづくり拠点である愛知県では、外国人材の役割が少しずつ変わり始めています。人手不足を補うための採用だけではなく、技術を学び、現場を支え、将来的には改善や人材育成にも関わる存在として期待されるようになっています。

愛知県の製造業が今後も競争力を維持するために必要なのは、単に採用人数を増やすことではありません。どのような仕事を任せ、どのように技術を教え、将来どのような役割を担ってもらうのかまで考えた人材戦略が求められています。

愛知県の製造業が直面する人材確保の課題

日本を代表する製造業の集積地

愛知県は、日本を代表する製造業集積地です。自動車メーカーを中心に、自動車部品、工作機械、電気・電子、金属加工など、幅広い企業が集まっています。

項目 内容
人口 約750万人
製造品出荷額 全国トップクラス
主要産業 自動車・機械
代表都市 名古屋市・豊田市
外国人材需要 ★★★★★

愛知県の特徴は、大手完成車メーカーだけで産業が成り立っているわけではないことです。その周辺には一次部品メーカーがあり、さらに二次・三次加工企業、金型、機械加工、組立、検査などを担当する企業が広がっています。

完成車メーカーから部品メーカー、加工会社、検査会社まで続く大きなサプライチェーンが、愛知県のものづくりを支えています。一方で、この幅広い産業構造は、多くの種類の技術人材を継続的に必要とします。

若手人材の確保と技能継承

現在、特に課題となっているのが、若い人材の確保と技能継承です。日本人若手人材の採用競争が激しくなる一方、長年現場を支えてきた熟練者は少しずつ退職時期を迎えています。

課題 内容
若手不足 技能を引き継ぐ人材の確保が難しい
採用難 日本人応募者の減少により採用競争が激化
技術継承 熟練者の退職前に技術を伝える必要がある
海外競争 生産性向上や自動化への対応が必要

中小製造企業では、受注や仕事があっても、それを担当する人材が足りないケースがあります。しかし、問題は人数だけではありません。

新しい人材を採用できても、業務を教える担当者や教育の仕組みがなければ、技術は十分に引き継がれません。人材不足への対応は、採用と同時に、技能継承の方法を見直す取り組みでもあります。

愛知県の製造業が必要とする人材

愛知県の製造業では、製造現場で作業を担当する人材だけでなく、設計、品質管理、生産技術、IT・DXなど、さまざまな分野で人材が必要とされています。

順位 人材分野 需要
1 製造技能人材 ★★★★★
2 機械技術者 ★★★★★
3 CAD設計者 ★★★★☆
4 品質管理担当 ★★★★☆
5 生産技術者 ★★★★☆
6 IT・DX人材 ★★★☆☆

分野ごとに異なる専門性

これらの職種は、同じ製造業に属していても、求められる能力が異なります。

製造技能人材には、機械や設備の操作だけでなく、決められた手順を守り、品質や安全を維持する力が求められます。機械技術者やCNC・NC加工技術者には、図面の理解、加工条件の設定、寸法精度の管理など、より専門的な知識が必要です。

CAD設計者は、AutoCAD、SolidWorks、CATIA、JW CADなどを使い、部品や機械の図面を作成します。設計ソフトを操作できることだけでなく、製品構造や加工方法を理解しているかも重要になります。

生産技術者は、工程改善、設備改善、自動化、品質向上などを担当します。目の前の作業だけではなく、製造工程全体を見ながら、生産性や品質を高める役割です。

品質管理担当には、不具合を発見するだけでなく、その原因を整理し、再発防止につなげる力が求められます。また、IT・DX人材は、生産管理システム、データ活用、自動化設備などを通じて、製造現場の効率化を支えます。

このように、企業が外国人材を採用する際には、単に「製造業の経験があるか」を確認するだけでは十分ではありません。自社のどの工程で、どのような能力が必要なのかを整理したうえで、候補者の経験や適性を確認する必要があります。

愛知県の製造現場で活躍するベトナム人材

ベトナム人材が活躍するために必要な条件

ベトナムでは製造業が発展し、日本企業の進出も続いています。そのため、日本式の品質管理、5S活動、改善活動、技術教育などを経験している人材も見られるようになっています。

機械加工、電気、CAD、IT、自動化技術などを学び、日本でさらに専門性を高めたいと考える人材もいます。また、数年間働いて帰国することだけを目的とせず、日本企業で技術を身につけながら長期的なキャリアを築きたいと希望するケースもあります。

ただし、ベトナム人材であれば、誰でも愛知県の製造業に適しているということではありません。重要なのは、国籍ではなく、企業が求める条件と本人の経験や目標が合っているかどうかです。

経験の内容を具体的に確認する

例えば、同じCAD経験者でも、使用したソフト、担当した製品、図面作成の範囲、設計変更への対応経験によって、実際に担当できる仕事は異なります。CNC加工の経験があっても、扱ってきた機械や材料、精度、加工方法が違えば、入社後に改めて学ぶ必要があります。

日本語能力についても、試験結果だけで判断するのではなく、実際の仕事で必要となるコミュニケーションを確認することが大切です。現場の指示を理解できるか、安全上の注意を確認できるか、分からないことを質問できるかなど、仕事の内容に合わせて判断する必要があります。

企業側が採用前に確認すべきなのは、主に次の点です。

  • 自社の設備や工程に関連する経験があるか
  • 図面や作業手順を理解できるか
  • 安全や品質に対する基本的な意識があるか
  • 必要な日本語を入社後も学ぶ意志があるか
  • 本人が希望するキャリアと企業が用意できる役割が合っているか

即戦力採用と育成採用の目的を分ける

経験者を採用した場合でも、入社後すぐにすべての仕事を任せられるとは限りません。企業ごとに製品、設備、基準、作業方法が異なるため、即戦力として期待される人材にも一定の教育期間が必要です。

一方で、基礎知識や適性を持つ人材を採用し、時間をかけて育成する方法もあります。企業は、短期的に不足している人員を補いたいのか、将来の技術者を育てたいのかを明確にしなければなりません。目的が異なれば、選考基準や教育方法も変わります。

仕事の内容に合わせた在留資格の整理

外国人材を採用する際には、本人の能力だけでなく、担当する仕事と在留資格が合っているかを確認する必要があります。

技能実習や育成就労、特定技能、技術・人文知識・国際業務では、それぞれ想定される仕事や制度の目的が異なります。

在留資格・制度 主な対象として想定される仕事
技能実習・育成就労 加工、組立などの製造現場
特定技能 工業製品製造業など、対象分野で定められた業務
技術・人文知識・国際業務 設計、技術開発、生産管理などの専門業務

大切なのは、先に採用する人を決め、その後で在留資格を考えることではありません。まず自社で担当してもらう仕事内容を整理し、その仕事に必要な知識、経験、在留資格を確認する必要があります。

例えば、CAD設計や技術開発として採用したにもかかわらず、実際には単純な製造作業が中心になれば、採用時の説明との間にずれが生じます。反対に、製造現場で採用した人に対し、十分な教育を行わずに高度な技術業務を期待しても、本人は力を発揮できません。

仕事内容、能力、在留資格の三つを採用前に整理することが、企業と人材の双方にとって重要です。

外国人材への教育と技能継承を行う製造現場

採用後の教育が定着と技能継承を左右する

外国人材の採用がうまくいかない原因は、本人の能力不足だけにあるわけではありません。採用後の仕事や将来像が十分に説明されていないことも、大きな要因になります。

よく見られるのは、「人手不足だから採用する」という考えだけで採用を進めてしまうケースです。本人が何のために採用され、どの技術を身につけ、将来どのような役割を担うのかが見えなければ、長く働くイメージを持ちにくくなります。

また、日本語や仕事上のルールを本人任せにすると、現場で小さな認識のずれが積み重なります。指示の意味を確認できない、安全上の注意が十分に伝わらない、評価の理由が分からないといった問題は、コミュニケーションの量だけでは解決できません。

企業側には、仕事を教える方法を整理し、質問しやすい環境をつくることが求められます。

入社後3年から5年を見据えた育成

採用前には、技術能力、日本語能力、仕事への姿勢を確認します。入社後は、日本語教育、安全教育、業務の基本、社内ルールなどを段階的に伝えます。

その後、3年から5年程度の期間を見ながら、本人の適性や成長に応じて役割を広げていきます。

  1. 作業手順と安全基準を理解する
  2. 担当業務を安定して行えるようになる
  3. 製造工程全体への理解を深める
  4. 改善活動や品質向上に参加する
  5. 後輩の指導やチーム内の調整を担当する
  6. 技術担当者や海外拠点との連携役を目指す

すべての人がリーダーや管理職になる必要はありません。専門技術を深める人、現場で安定した生産を支える人、後輩を教育する人など、成長の方向はそれぞれ異なります。

企業が複数のキャリアの可能性を示すことで、本人も自分の将来を考えやすくなります。昇給や昇格だけではなく、どの技術を身につければ役割が広がるのかを説明することも重要です。

2030年に向けて求められる人材戦略

愛知県の製造業では、今後も幅広い分野で人材需要が続くと考えられます。

職種 需要予測
機械技術者 ★★★★★
CAD設計者 ★★★★★
生産技術者 ★★★★★
IT・DX人材 ★★★★☆
技能人材 ★★★★★

製造業の競争力を維持するためには、現在の生産を支える人材と、将来の工程改善や自動化を支える人材の両方が必要です。

これから企業が求める外国人材は、決められた作業だけを担当する人に限られません。技術を学ぶ人、改善活動に参加する人、チームを支える人、将来的に後輩を育てる人も含まれます。

そのためには、外国人材を一時的な労働力として捉えるのではなく、自社の技術や生産体制を将来につなぐ人材として考える必要があります。

愛知県の製造業は、世界に誇る技術と大きな産業基盤を持っています。しかし、その技術を維持するだけではなく、次の世代へ伝えていくためには、新しい人材を受け入れ、育てる仕組みが欠かせません。

ベトナム人材の採用も、人数を補うことだけを目的にすれば、長期的な成果にはつながりにくいでしょう。仕事内容を明確にし、必要な教育を行い、本人が成長できる役割を用意することで、初めて企業と人材の双方にとって意味のある採用になります。

今後、愛知県で成長を続ける企業に求められるのは、外国人を採用することそのものではありません。外国人技術者を育て、ともに現場を支え、次のものづくりをつくっていく力です。

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