日本経済を支える「労働力」から「未来の戦力」へ
日本の労働市場は、大きな変化を迎えています。少子高齢化による人口減少、地方からの若年層の流出、産業を支える人材の不足が同時に進み、多くの企業が従来の採用方法だけでは必要な人材を確保しにくくなっています。
こうした状況の中で、外国人労働者は日本経済や地域産業を支える重要な存在になっています。
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出によると、2024年10月末時点の外国人労働者数は230万2,587人となり、統計開始以来の過去最多を更新しました。外国人を雇用する事業所数も34万2,087事業所に達しています。
さらに、2025年10月末時点では、外国人労働者数は257万1,037人まで増加しています。
| 時点 | 外国人労働者数 | 外国人を雇用する事業所数 |
|---|---|---|
| 2024年10月末 | 2,302,587人 | 342,087事業所 |
| 2025年10月末 | 2,571,037人 | ― |
現在の日本は、「外国人を採用する時代」から、「外国人材と共に企業を成長させる時代」へ移行しつつあります。
1.外国人労働者230万人時代の到来
日本で働く外国人の数は、この十数年間で大きく増加しました。
| 年 | 外国人労働者数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2013年 | 約72万人 | ― |
| 2018年 | 約146万人 | 14.2% |
| 2019年 | 約166万人 | 13.6% |
| 2021年 | 約173万人 | 0.2% |
| 2023年 | 約205万人 | 12.4% |
| 2024年 | 約230万人 | 12.4% |
| 2025年 | 約257万人 | 11.7% |
2013年には約72万人だった外国人労働者数が、2025年には約257万人となり、十数年で3倍以上に増加しています。
この増加の背景には、外国人材の受入れ制度や在留資格の変化だけではなく、日本企業自身が外国人材を必要としているという現実があります。
2.なぜ日本企業は外国人材を必要としているのか
大きな背景の一つは、日本の人口減少です。
日本の生産年齢人口である15歳から64歳までの人口は減少を続けています。特に地方では、若年層の流出も重なり、採用対象となる人材そのものが少なくなっている地域があります。
| 項目 | 現在見られる状況 |
|---|---|
| 総人口 | 減少傾向 |
| 高齢者人口 | 増加 |
| 若年労働人口 | 減少 |
| 地方の人材 | 確保が難しい |
| 採用競争 | 激化 |
特に人材確保が課題になっている分野として、次のような仕事があります。
- 工場・製造
- 建設現場
- 介護施設
- 農業
- 食品加工
これらの分野では、「日本人だけを対象にした採用では必要な人数を確保しにくい」という企業が増えています。
ただし、外国人材の採用だけで、すべての人材不足が解決するわけではありません。業務の見直し、教育体制、生産性向上、働きやすい環境づくりとあわせて考える必要があります。
3.国籍別に見る外国人労働者
2024年10月末時点の国籍別外国人労働者数を見ると、ベトナム人が最も多くなっています。
| 順位 | 国籍 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 1位 | ベトナム | 570,708人 | 24.8% |
| 2位 | 中国 | 408,805人 | 17.8% |
| 3位 | フィリピン | 245,565人 | 10.7% |
| 4位 | ネパール | 約17万人 | ― |
| 5位 | インドネシア | 約15万人 | ― |
日本で働く外国人のおよそ4人に1人がベトナム人です。ベトナム人材は、日本の外国人労働市場において最も規模の大きいグループの一つになっています。
この数字は、ベトナムが日本企業にとって重要な人材供給国になっていることを示しています。
4.なぜベトナム人材が日本企業から選ばれるのか
ベトナム人材が日本企業から選ばれている背景には、人口構成、来日前の教育、技術分野への進出など、複数の要因があります。
若い人口構成
ベトナムは、日本と比較して若い世代の割合が高く、労働人口も比較的豊富です。
| 項目 | 日本 | ベトナム |
|---|---|---|
| 人口 | 約1.2億人 | 約1億人 |
| 高齢化 | 非常に高い | 進行中だが若い層も多い |
| 労働力 | 減少 | 比較的豊富 |
日本企業にとって、ベトナムは将来的な人材供給国の一つとして重要な位置を占めています。
日本の職場への適応に向けた準備
日本で働くベトナム人材の中には、来日前から次のような内容を学んでいる人もいます。
- 日本語
- 日本企業の働き方
- 技術教育
- 職場での基本的なマナー
採用や就労支援の現場では、時間を守ること、周囲と協力すること、技術を学ぼうとする姿勢などが企業から評価されるケースがあります。
ただし、これらはすべてのベトナム人に共通する特徴ではありません。実際の採用では、国籍だけで判断せず、一人ひとりの経験、能力、適性、仕事への考え方を確認する必要があります。
技術人材としての可能性
近年、ベトナム人材が担当する仕事の範囲も変化しています。
| これまで多く見られた役割 | 今後広がると考えられる役割 |
|---|---|
| 現場作業 | 技術職 |
| 製造・加工 | エンジニア |
| 補助的な業務 | 管理・リーダー業務 |
| 定型的な仕事 | 専門知識を必要とする仕事 |
特に需要が見られる分野は次のとおりです。
| 分野 | 求められる人材 |
|---|---|
| 製造業 | 機械加工、CAD、生産技術 |
| IT | エンジニア、開発者 |
| 建設 | 施工管理、設備技術 |
| 介護 | 介護福祉士候補 |
| 貿易 | 日越ビジネス担当 |
ベトナム人材の役割は、現場を支える人材だけでなく、技術、専門知識、国際業務を担う人材へと広がっています。
5.在留資格別に見る外国人材市場
外国人労働者の在留資格を見ると、「専門的・技術的分野」の人数が最も大きくなっています。
| 在留資格の区分 | 人数 |
|---|---|
| 専門的・技術的分野 | 718,812人 |
| 身分に基づく在留資格 | 629,117人 |
| 技能実習 | 470,725人 |
| 資格外活動 | 398,167人 |
| 特定活動 | 85,686人 |
専門的・技術的分野が最大の区分になったことは、外国人材が働く領域が広がっていることを示す変化の一つです。
日本企業が求める外国人材も、単純な人員補充だけではなく、次のような分野へ広がっています。
- 技術者
- エンジニア
- 専門職
- 国際業務を担当する人材
- 将来の管理職候補
すべての企業が同じ方向へ進んでいるわけではありませんが、外国人材市場が専門化、多様化していることは重要な変化です。
6.業種別外国人材需要ランキング
外国人材の採用支援、企業からの相談、実際の求人傾向などをもとに整理すると、特に需要が高い分野は次のとおりです。
※このランキングは公的な求人倍率の順位ではなく、外国人材市場の動向や企業の採用状況をもとに整理した目安です。
| 順位 | 業種 | 需要度 | 主な地域 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 製造業 | ★★★★★ | 愛知、静岡、群馬、茨城 |
| 2位 | 介護 | ★★★★★ | 全国 |
| 3位 | 建設 | ★★★★★ | 全国 |
| 4位 | 食品加工 | ★★★★☆ | 北海道、地方都市 |
| 5位 | 農業 | ★★★★☆ | 北海道、茨城 |
| 6位 | 宿泊・観光 | ★★★★☆ | 京都、沖縄 |
| 7位 | IT | ★★★★☆ | 東京、大阪、福岡 |
製造業、介護、建設は、継続的に人材を確保しにくい分野であり、外国人材の採用が広がっています。
食品加工、農業、宿泊・観光では、地域や季節によって需要に差があります。IT分野では、採用人数だけでなく、企業が必要とする技術と候補者の経験が合っているかが重要になります。
7.地方企業ほど外国人材が重要になる
外国人材の需要は、大都市だけに集中しているわけではありません。
地域によって産業構造や人材不足の状況が異なり、外国人材が必要とされる分野にも特徴があります。
| 地域 | 人材不足が見られる主な分野 |
|---|---|
| 北海道 | 農業、食品加工 |
| 東北 | 製造、介護 |
| 関東 | 物流、製造 |
| 東海 | 自動車、製造 |
| 北陸 | 製造 |
| 関西 | 介護、サービス |
| 九州 | 半導体、製造 |
地方では、若年層の流出や採用対象人口の減少によって、人材を確保できる範囲が限られる場合があります。
そのため、外国人材が単に不足する人数を補うだけでなく、工場、農業、介護施設、地域サービスなどを継続するための人材になっているケースもあります。
地域によっては、外国人材が「地域産業を維持する存在」になりつつあります。
8.政府政策も「受入れ」から「育成」へ
外国人材を取り巻く制度も、大きな転換期を迎えています。
現在の技能実習制度は、2027年4月1日から始まる育成就労制度へ移行する予定です。
| これまで | これから |
|---|---|
| 技能実習制度 | 育成就労制度 |
| 技能移転を中心とした制度 | 人材の育成と確保を重視する制度 |
| 実習の適正な実施 | 特定技能1号水準への育成 |
| 一定期間の実習 | 就労とキャリア形成を意識した受入れ |
新しい制度では、次のような内容がこれまで以上に重要になります。
- 日本語教育
- 技能の向上
- キャリア形成
- 長期就労
- 適切な雇用管理
制度の方向性からも、外国人材を一時的な労働力として受け入れるだけではなく、日本で働きながら成長する人材として育成していくことが重視されています。
9.企業に求められる新しい採用戦略
外国人材の採用や定着に成功しやすい企業は、「人が足りないから外国人を採用する」という考えだけでなく、「将来の社員として採用し、育成する」という視点を持っています。
必要な取り組みは、採用前、入社後、長期育成の三つの段階に分けて考えることができます。
採用前
| 確認項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 日本語 | 業務に必要な会話、読解、報告ができるか |
| 技術 | 必要な知識や実務経験を持っているか |
| 人柄・適性 | 職場や仕事の特性に合っているか |
| 在留資格 | 予定している仕事内容と合っているか |
| 希望条件 | 本人が希望する仕事や将来像と合っているか |
入社後
| 取り組み | 主な内容 |
|---|---|
| 日本語教育 | 業務に必要な日本語を学べる環境 |
| 社会人基礎力 | 報告、連絡、相談などの基本行動 |
| 業務教育 | 仕事の手順や判断基準の説明 |
| 生活支援 | 住居、行政手続き、生活上の相談 |
| 定期面談 | 仕事や生活の問題を早めに確認する |
長期的な育成
| 取り組み | 主な内容 |
|---|---|
| 昇給制度 | 成長や成果に応じた処遇 |
| 技術育成 | より高度な仕事を担当するための教育 |
| 評価制度 | 何を基準に評価するかを明確にする |
| キャリア形成 | 将来の役割や成長の方向を共有する |
| 管理職育成 | リーダーや管理職としての役割を広げる |
採用時の条件だけでなく、入社後にどのように働き、どのように成長できるかを示すことが、長期的な定着につながります。
10.今後10年の外国人材市場予測
人口減少、人材不足、在留資格制度の変化、外国人材の専門化を踏まえると、今後10年の日本企業では、次のような人材の需要が高まると考えられます。
※需要予測は、現在の市場動向、企業の採用傾向、制度変更をもとに整理した見通しです。
| 人材 | 需要予測 | 背景 |
|---|---|---|
| 特定技能人材 | ★★★★★ | 人手不足分野での受入れ拡大 |
| ベトナム人技術者 | ★★★★★ | 技術職、製造、IT分野への進出 |
| 介護人材 | ★★★★★ | 高齢化と介護人材不足 |
| IT人材 | ★★★★☆ | DX、システム開発需要 |
| 外国人管理職 | ★★★★☆ | 長期就労者と経験者の増加 |
今後は、外国人材の人数が増えるだけでなく、担当する仕事や企業内での役割も広がっていくと考えられます。
現場で経験を積んだ外国人社員が、技術者、リーダー、教育担当者、管理職として働くケースも増えていく可能性があります。
外国人材は日本企業の「未来への投資」
230万人を超え、さらに257万人まで拡大した外国人労働市場は、単なる人手不足対策だけでは捉えられません。
これからの日本企業に必要なのは、外国人を採用することだけではなく、外国人材と共に企業を成長させるための環境を整えることです。
特にベトナム人材は、若い労働人口、技術を学ぶ意欲、日本語学習への取り組み、国際的な視点などを持つ人材として、日本企業から期待されています。
一方で、国籍だけで人材の能力や適性を判断することはできません。企業が求める条件と、一人ひとりの経験、能力、希望が合っているかを確認することが重要です。
人口減少が続く日本において、外国人材の採用、育成、定着に継続的に取り組む企業は、将来の人材確保や事業継続において、より多くの選択肢を持つことができます。
外国人材を単なる労働力としてではなく、「未来を共につくる人材」として迎えることが、これからの企業に求められる視点です。