優秀な貿易人材を採用できたのに、なぜ辞めてしまったのか
外国人採用というと、「採用できれば人手不足は解決する」と考えられることがある。
しかし実際には、採用成功と定着成功は別の課題である。
今回紹介するのは、実際に企業が時間とコストをかけて理想に近い人材を採用できたにもかかわらず、結果として退職につながってしまったケースである。
採用は成功していた
今回の事例は、中規模の商社で起きた。
この会社では以前から若手日本人採用に苦戦していた。特に、海外との輸出入業務を担当できる人材の確保は難しく、日本語力だけでなく、英語、商習慣理解、交渉力まで求められるため、採用市場でも競争が激しくなっていた。
そこで会社は採用対象を海外にも広げ、FirstStepを通じてベトナムから人材を採用した。
採用した人材は、日本語・英語の両方を高いレベルで運用でき、貿易実務経験も十分に備えていた。
入社後は想定以上に早く業務に適応し、約3か月で会社の仕事の進め方を理解した。
既存顧客対応だけではなく、自ら新規顧客の開拓にも取り組み、徐々に新しい契約獲得につながっていった。
結果として、2年間の累計では会社に大きな売上貢献をもたらした。
ここで重要なのは、「特別な人材だったから成功した」という話ではないことである。
会社が必要としていた条件と、人材が持っていた経験・能力・適性が高いレベルで一致していた。
その意味では、この採用自体は成功していたと言える。
問題は能力ではなく、組織運営の側で起きていた
一方で、仕事が順調に進む中で別の問題が少しずつ表面化していった。
会社は大規模組織ではなく、現場判断や役員判断に依存する運営も多かった。
その中で、二人の副社長から異なる指示が出される状況が発生した。
一方の指示に従うと、もう一方から注意を受ける。逆の判断をすると別の評価になる。
どちらを優先すべきかが明確ではなく、本人は常に正解のない状態で判断を続ける必要があった。
最初は努力で吸収していた。
しかし時間が経つにつれて、仕事の難しさよりも、組織のルールが見えないことの方が大きな負担になっていった。
採用したのに、なぜ「外の人」のままになってしまうのか
さらに、本人にとって忘れられない出来事があった。
当時、ベトナム人による犯罪報道が以前より目立つ時期があった。
ある日、副社長が雑談の中で、本人に対してこう声を掛けた。
「あなたはそういうことしないよね」
発言した側に悪意はなかったのかもしれない。むしろ、軽い会話のつもりだった可能性もある。
しかし、受け取る側には違う意味を持つことがある。
その人はすでに入社して成果を出し、会社の売上にも貢献し、同じ組織の一員として働いていた。
それにもかかわらず、自分個人ではなく「ベトナム人」という属性を通して見られているように感じた。
もちろん、この一言だけが退職理由ではない。
ただ、この出来事は本人にとって、「自分は成果を出しても、まだ組織の中では完全な仲間として見られていないのかもしれない」という感覚を強く意識するきっかけになった。
ここで考えたいのは、誰かを責めることではない。
むしろ、多くの企業が陥りやすい構造である。
企業は人材不足を解決するために、多くの時間とコストをかけて海外採用を行う。採用できた時点では高い期待を持つ。
しかし採用後の運営になると、無意識のうちに外国人を「外から来た人」「特別な人」「補助的な人材」として扱ってしまうことがある。
すると採用時に期待していた価値そのものを、自ら減らしてしまう。
外国人採用を進めるなら、準備するべきなのは受け入れ手続きだけではない。
管理職の認識、指示の出し方、評価基準、日常のコミュニケーションも含めて、組織側も少し運営を更新していく必要がある。
外部支援を採用時だけで終わらせない
状況が悪化し始めた段階で、本人とFirstStepは会社側と対話を行い、状況改善を試みた。
ここで重要なのは、外部支援の役割は候補者の代理人になることではないという点である。
現場では、仕事の進め方、期待値、評価の受け取り方など、小さな認識差が積み重なって問題になることがある。
そのため第三者として間に入り、双方の意図を整理し、調整を支援する役割が必要になる。
しかし今回のケースでは、十分な運営変更につながらず、最終的に本人は退職を選択した。
企業側にとっても大きな損失だった。
時間をかけて採用し、育成し、成果まで出ていた人材を失うことになったからである。
採用できたことは、ゴールではない
外国人採用は、人を採用する活動だけでは終わらない。
採用後にどのように働いてもらうか、誰が指示を出すか、どう評価するか、困りごとをどう解決するかまで含めて初めて成果になる。
文化や背景の違いは存在する。
しかし、その違い自体が問題なのではない。
企業側が少し準備し、少し対話し、必要に応じて支援機関とも協力することで、多くの摩擦は減らすことができる。
人手不足が続く時代だからこそ、採用できたことに満足するのではなく、活躍し続けられる環境づくりまでを含めて採用戦略として考えることが重要なのかもしれない。