
人手不足だけでは説明できない採用の難しさ
この機械加工会社が外国人採用を始めた理由は、新しい取り組みに挑戦したかったからではありません。背景にあったのは慢性的な人手不足でした。ただ、会社が直面していた課題は人数だけではありませんでした。
この仕事は、時間をかけて習熟していくことが前提になる仕事でした。工程そのものは標準化されていますが、現場では手順通りに進めれば毎回同じ結果になるわけではありません。
ロットごとの違い、材料のわずかな個体差、温度や湿度などの加工条件、顧客ごとの要求仕様によって、加工方法や調整内容が変わることがあります。加工後も寸法確認や仕上がり確認を行い、必要に応じて品質確認担当と相談しながら微調整を重ねて完成度を高めていきます。
そのため、新しく入社した人にとって最初の壁は少し独特です。手順通りに進めたのに修正が必要になることもあれば、前回と同じように作業したのに結果が変わることもあります。
その繰り返しの中で、自分の仕事がうまくいっていないと感じたり、想像していた仕事との違いから離職につながるケースもありました。
採用するより、続けてもらう方が難しかった
会社自身も、その難しさを理解していました。こうした積み上げ型の仕事に長く向き合いたいと思う人は決して多くありません。採用できたとしても、その人が現場を理解し、力を発揮できるところまで育つにはさらに時間が必要でした。
そこで会社は、採用人数を増やすことだけを考えるのではなく、「入社した人が続けられる環境をどう作るか」に少しずつ目を向けるようになりました。
- 新人にはすぐに大きな役割を任せず、まずは試行錯誤できる時間を確保する
- 最初の失敗を能力不足と判断せず、経験として積み上げる
- 現場では経験のある社員が横につき、単にやり直しを指示するのではなく、なぜ調整が必要なのかまで説明する
また、仕事以外の面でも、通勤や食事など生活面の負担を少しでも軽減できるよう支援を続けていました。採用した後に長く働いてもらうために、環境そのものを少しずつ整えていったのです。
難しさを前提として受け止める姿勢
そんな環境の中で、FirstStepを通じて一人のベトナム人材と出会いました。
印象的だったのは、多くの人が難しさを感じる部分に対する受け止め方でした。
製品の調整が必要になった場面でも、それを自分の失敗とは捉えませんでした。製品ごとに違いがあり、顧客ごとに求められるものが違う以上、確認や調整を繰り返しながら完成度を高めていくのは自然なことだと考えていました。
その姿勢は、作業だけではなく日々のコミュニケーションにも表れていました。同僚や品質確認担当と積極的に会話し、指摘や修正依頼も否定的に受け止めず、次により良くするための情報として取り入れていました。その積み重ねによって、現場と品質確認のやり取りも徐々に自然なものになっていきました。
採用の成功は、数年後に見えてくることがある
現在、入社から3年目になります。
振り返ってみると、印象に残っているのは外国人材を採用できたことではありません。この仕事の特性に合う人と出会えたこと、そしてその人が成長できる環境を会社側も継続して作り続けていたことでした。
採用は、採用した時点では成功かどうか分からないことがあります。特に時間をかけて育つ仕事では、採用することよりも、続けてもらい、力を発揮してもらうことの方が難しい場面も少なくありません。
だからこそ、採用における「運」は偶然だけで生まれるものではないのかもしれません。仕事の難しさを理解し、人が離れる理由を見つめ直し、環境を少しずつ整え続けた先で、初めて出会えるものもあります。