「現場から育てる」ことが難しくなるとき
外国人材の採用では、本人の能力や意欲だけでは判断できない場面があります。今回のケースも、その一つでした。
ベトナムの大学で機械を学んだ一人の若者がいました。とても前向きで、責任感もあり、企業側から見ても「一緒に働いてみたい」と思える人材でした。仕事は、地方の中堅規模の機械系企業での技術職です。
しかし、最終的に採用には至りませんでした。大きな理由は、在留資格の面で許可が下りるかどうか、会社側が不安を持ったためです。
その会社では、入社後すぐに設計や技術営業のような机上の仕事だけを任せるのではなく、まず1〜2年ほど現場に入り、製品の仕組み、加工の流れ、品質の見方、お客様が実際に求めていることを学んでもらう方針でした。機械の仕事では、これは特別なことではありません。むしろ、現場を知らずに図面だけを見るほうが難しい仕事もあります。
日本人の若手技術者でも、最初から設計室だけで育つとは限りません。現場で製品に触れ、失敗や調整を見て、加工の制約を知り、お客様の使い方を理解してから、少しずつ設計や改善、提案の仕事に進んでいくことがあります。中小・中堅の機械系企業では、このような育て方が自然な流れになっているケースも少なくありません。
ところが、外国人材の場合、その「現場から育てる」という当たり前の育成プロセスが、在留資格の面で大きな壁になることがあります。
問題は、現場作業そのものではなく、仕事の見え方にある
技術・人文知識・国際業務の在留資格は、大学などで学んだ専門知識を活かす業務を前提としています。そのため、仕事の中心が単純な製造作業や現場作業と見なされる場合、許可が難しくなる可能性があります。
この考え方自体には、一定の意味があります。技術職という名目で採用しながら、実際には専門性と関係のない作業だけを任せるような形は、防がなければなりません。外国人材を守るためにも、制度上の線引きは必要です。
ただ、今回のような機械系企業のケースでは、現場に入ることが単なる作業ではなく、将来の技術業務につながる学びの期間であることもあります。製品を理解し、加工の現実を知り、品質や納期の感覚を身につけることは、後の設計、改善、技術提案に直結します。
特に中小企業では、大企業のように職務を細かく分けることが難しい場合があります。一人の技術者が、図面を見るだけでなく、現場の状況を確認し、お客様の要望を聞き、改善案を考えることもあります。そのような仕事では、現場を知らないまま技術職として働くことのほうが、かえって現実的ではありません。
それでも、在留資格の審査では、現場での期間が長く見えたり、業務内容の説明が十分でなかったりすると、「技術職」ではなく「現場作業」と受け取られるリスクがあります。会社側は、そのリスクを恐れます。そして、結果として、本来であれば育てられたかもしれない人材を採用しない判断につながってしまいます。
中小企業にとって、人を育てる余裕はますます小さくなっている
現在、多くの中小企業では人材確保が大きな課題になっています。特に製造現場や現業職では、人手不足を感じている企業が少なくありません。人が足りない中で、即戦力を採用することは簡単ではありません。
機械系の仕事は、学校で学んだ知識だけで完結するものではありません。図面を読めること、機械の基本を知っていることは大切です。しかし、それだけで会社ごとの製品、加工方法、品質基準、顧客の求める細かい感覚まで理解できるわけではありません。
だからこそ、多くの企業では「最初から完璧な人」を探すのではなく、「基礎があり、責任感があり、現場で学びながら伸びていける人」を育てようとします。今回のケースでも、会社が求めていたのは、すぐにすべてを任せられる完成された人材ではなく、現場を経験しながら技術者として育っていける人材でした。
しかし、その育成プロセスが在留資格上のリスクとして見えてしまうと、企業は採用に踏み切りにくくなります。本人に意欲があっても、会社に育てる意思があっても、制度上の不安があるだけで、採用の入口で止まってしまうのです。
これは、本人にとっても、企業にとっても、非常にもったいないことです。
制度と現場の距離を少しずつ近づけるために
この話は、制度を否定したいということではありません。外国人材が不適切な形で働かされないようにするためにも、在留資格のルールは必要です。技術職という名前だけで、実際には専門性と関係のない仕事をさせるようなことは、あってはならないと思います。
一方で、実際のものづくりの現場では、技術者が現場を知らずに育つこともまた難しい現実があります。特に中小・中堅の機械系企業では、現場での経験がその後の設計、改善、技術提案につながることがあります。
大切なのは、「現場に入るかどうか」だけで判断することではなく、その現場経験が何のためにあるのか、どのくらいの期間なのか、その後どのような技術業務につながるのかを見ることではないでしょうか。
今回のケースのように、本人の専門性、会社の育成方針、将来の業務内容に一貫性がある場合には、もう少し現実に即した見方ができる余地があるように感じます。
制度を作る側にとっても、こうした現場のケースを受け止めることは、決して制度を緩くするためだけではないはずです。むしろ、現実に合った制度に近づけることで、企業も外国人材も無理に抜け道を探す必要がなくなります。
目指すべきなのは、ルールを守りながら、企業が必要な人材を育てられ、外国人材も安心して働ける環境です。その積み重ねが、健全な労働市場をつくり、日本のものづくりを支えることにもつながっていくのだと思います。