外国人の日本語学習を個人任せにしない動き
2026年7月、法務省は、外国人が日本語や日本で生活するために必要な制度・ルールを学ぶための、新たな学習プログラムに関する検討内容を公表しました。
日本で長く働き、生活していくために、日本語は欠かせません。一方で、その習得を外国人本人の努力だけに任せることには限界があります。
毎日8時間から10時間働いた後に、自分で学習時間を確保し、それを長期間継続することは簡単ではありません。企業が日本語教育を支援しようとしても、費用や担当者、教育方法などの問題から、十分な体制を整えられない場合もあります。
日本が今後も外国人材を受け入れ、長く活躍してもらうことを目指すのであれば、日本語学習を個人や一部の企業だけの課題にしない仕組みが必要です。その意味で、国が継続的な学習環境の整備に関わろうとしていることを、FirstStepは前向きに受け止めています。
毎月試験を実施すれば、勉強するようになるのか
FirstStepが支援している企業の一社では、外国人社員の日本語学習を促すため、毎月日本語試験を実施することになりました。
定期的に試験があれば、社員が目標を持って勉強するようになるのではないか。企業側には、そのような期待がありました。
FirstStepは依頼を受け、毎月試験を実施しました。しかし、1年、2年と続けても、日本語力に大きな変化は見られませんでした。試験を受けることは続いていても、試験に向けた学習そのものが十分に行われていなかったためです。
このケースから分かったのは、試験を用意することと、学習する環境を作ることは同じではないということでした。
試験は結果を確認できても、学習そのものにはならない
試験には、日本語力を確認する役割があります。以前と比べて何ができるようになったのか、どの分野が不足しているのかを把握するためには有効です。
しかし、試験を実施するだけでは、学習する時間も、具体的に何を学ぶべきかという目標も生まれません。
試験の結果を確認した後に、苦手な部分をどのように改善するのか、次の試験までに何に取り組むのかまで設計されていなければ、毎月試験を受けること自体が目的になってしまいます。
この企業のケースでは、試験を継続する仕組みはありましたが、試験と日常の学習をつなぐ仕組みがありませんでした。そのため、試験の回数を増やしても、日々の行動には大きな変化が生まれませんでした。
仕事の中で日本語を使う機会を作る提案
FirstStepは、試験とは別に、日常業務の中で日本語を使う機会を増やすことを提案しました。
たとえば、作業内容を日本語で日報にまとめることや、仕事の結果を振り返り、問題点や改善方法を説明することです。
日本語を勉強しなければ対応できない仕事が少しずつ増えれば、学習した内容を実際に使う機会が生まれます。分からなかった表現を調べたり、相手に伝わるように書き直したりする過程も、学習の一部になります。
もちろん、どの仕事にも同じ方法が適しているわけではありません。日本語力が十分でない社員に、最初から難しい報告や分析を求めれば、仕事の負担が増えるだけになる可能性もあります。そのため、本人の日本語力や業務内容に合わせて、少しずつ取り入れる必要があります。
残念ながら、この提案は企業内で承認されませんでした。その結果、試験は続けられましたが、日本語を学び、実際に使う流れまでは作ることができませんでした。
努力を結果につなげるために必要な環境
このケースだけを見て、定期的な日本語試験に意味がないと結論づけることはできません。
試験は、現在の力を確認し、学習目標を設定するための一つの手段です。しかし、試験だけで学習習慣を作ることは難しく、試験の前後に何をするのかまで考える必要があります。
外国人本人が努力することは、今後も欠かせません。しかし、毎日の仕事を続けながら一人で学習を維持するには、大きな負担がかかります。
学習時間、適切な教材、具体的な目標、学んだ日本語を使う機会があってこそ、本人の努力も結果につながりやすくなります。
新たに検討されている国の学習プログラムが、単に教材や試験を提供するだけではなく、外国人が継続して学べる環境を社会全体で作るきっかけになることを、FirstStepは期待しています。
日本語を学ぶことが、試験に合格するためだけのものではなく、仕事でより多くの役割を担い、周囲と円滑にコミュニケーションを取り、日本での生活を長く楽しむための力になってほしいと考えています。
本人の努力が、本人だけの負担で終わらない環境があれば、少しずつでも成果につながっていくはずです。
学ぶ機会を用意するだけで、学習は続くのか
ただし、試験だけでは足りないのであれば、企業が無料の日本語教室を用意すれば問題は解決するのでしょうか。
FirstStepでは、別の企業に所属する外国人社員を対象に、無料の日本語講座も実施しました。しかし、そこでも、講座を用意しただけでは学習が続かないという別の課題が見えてきました。
次回は、無料の日本語講座を実施したケースを通して、学ぶ機会を提供することと、実際に学習が続くことの違いについて考えます。