外国人社員がいる職場で、会社が事前に考えておきたいこと
外国人社員を採用する際、多くの企業は在留資格、雇用契約、給与、社会保険、生活面のサポートなど、目に見える手続きに注意を向けます。もちろん、それらはとても重要です。
しかし、外国人社員が実際に長く働けるかどうかは、手続きだけで決まるわけではありません。日々の職場でどのように受け入れられ、どのような言葉の中で働くのかも、大きな影響を持ちます。
特に、これまで日本人社員が中心だった企業では、悪意がなくても、外国人社員にとっては少し苦しく感じられる場面が起こることがあります。会社としては、そのような場面を「本人同士の気遣い」に任せるのではなく、採用前からある程度考えておく必要があります。
何気ない会話が、本人を傷つけることもある
例えば、ニュースで「ベトナム人が犯罪をした」という報道があったとします。
そのニュースを見た日本人社員が関心を持つこと自体は、自然なことです。社会で起きている出来事について話題にすることも、職場の中では珍しくありません。
しかし、その会社にベトナム人社員がいる場合、話し方には注意が必要です。
本人はその事件とはまったく関係ありません。それでも、「ベトナム人」という言葉でひとまとめにされると、自分もその中に含まれて見られているように感じることがあります。
たとえば、何気なく「ベトナム人って、どうしてこういうことをするの?」と聞かれた場合、聞いた側に悪意がなかったとしても、聞かれた本人は返答に困ります。自分が説明する立場ではないにもかかわらず、同じ国籍であるというだけで、代表者のような位置に置かれてしまうからです。
このような小さな違和感は、その場では表に出ないこともあります。本人が笑って流したり、何も言わなかったりすることもあります。しかし、そうした経験が重なると、「自分はこの職場で一人の社員として見られているのだろうか」という不安につながる可能性があります。
問題は「ニュースを話すこと」ではなく、同僚を国籍で見てしまうこと
大切なのは、職場でニュースの話をしてはいけないということではありません。
問題は、ある個人の事件や一部の出来事を、目の前にいる同僚の国籍と結びつけてしまうことです。
外国人社員は、会社の中では一人の社員です。仕事を覚え、役割を持ち、チームの一員として働いています。国籍はその人の背景の一つではありますが、その人自身のすべてではありません。
にもかかわらず、外部のニュースや社会的なイメージによって、本人が説明責任のない立場に置かれてしまうと、職場への信頼は少しずつ弱くなります。
会社として注意したいのは、こうした場面が必ずしも明確なハラスメントとして表れるわけではないという点です。強い言葉や明らかな差別発言でなくても、受け取る側にとっては働きにくさにつながることがあります。
だからこそ、問題が起きてから注意するのではなく、事前に職場全体で認識をそろえておくことが大切です。
経営層の理解だけでは、現場には伝わらない
外国人採用は、多くの場合、経営者や管理職の判断から始まります。
人手不足への対応、事業拡大、海外人材の活用、将来的な組織づくりなど、経営層にはそれぞれの考えがあります。採用を決める段階では、外国人材を受け入れる必要性や背景について、ある程度整理されていることも多いでしょう。
しかし、外国人社員が入社した後、毎日一緒に働くのは現場の社員です。
現場の社員は、経営層と同じ情報を持っているとは限りません。なぜ外国人を採用するのか、どのような背景で受け入れるのか、会社として何を大切にしたいのかを十分に聞いていない場合もあります。
その状態で外国人社員が配属されると、現場では個人の感覚だけで受け入れが進んでしまいます。もちろん、多くの場合は悪意ではありません。しかし、知らないからこそ距離を取ってしまう、どう接してよいかわからない、社会的なイメージで見てしまう、ということは起こり得ます。
外国人採用を本当に定着につなげるには、採用を決めた人だけが理解している状態では不十分です。実際に一緒に働く現場まで、会社としての考え方を伝える必要があります。
ガイドラインは、現場を縛るものではなく守るもの
このような背景を考えると、外国人社員を採用する前に、社内で簡単なガイドラインを用意しておくことは有効です。
ガイドラインといっても、難しい規則を大量に作る必要はありません。大切なのは、現場の社員が「どのような言い方は相手を困らせる可能性があるのか」「問題が起きたとき、誰に相談すればよいのか」を知っておくことです。
例えば、次のような考え方だけでも、職場の空気は変わります。
- 同じ国籍の人が起こした事件について、社内の外国人社員に説明を求めない。
- 特定の国籍について、全体を決めつけるような話し方をしない。
- 本人がいない場所でも、国籍を理由にした軽い冗談や否定的な言い方を放置しない。
- 気になる発言があった場合は、管理者が早い段階で穏やかに軌道修正する。
これは、外国人社員だけを特別扱いするという意味ではありません。職場で働く一人ひとりが、不必要に傷つけられず、安心して仕事に向き合えるようにするための準備です。
また、ガイドラインは外国人社員を守るだけでなく、現場の日本人社員を守るものでもあります。何が適切で、どこから注意が必要なのかが共有されていれば、現場の社員も余計な不安を持たずに接することができます。
会社全体の文化にしていくことが必要
外国人社員を受け入れるうえで難しいのは、一度説明すれば終わりではないという点です。
特に、長年日本人社員だけで運営してきた企業では、これまで当たり前だった会話や距離感を見直すことに時間がかかります。現場には現場の慣れがあり、昔からの空気もあります。そのため、経営者や人事担当者が正しい考えを持っていても、それだけで職場全体がすぐに変わるわけではありません。
しかし、外国人採用を一時的な対応ではなく、これからの人材戦略として考えるのであれば、社内文化として少しずつ整えていく必要があります。
大きな制度をいきなり作る必要はありません。まずは管理職が考え方を理解する。次に、現場に配属される前にチームへ説明する。日々の会話の中で気になることがあれば、早めに修正する。外国人社員が困ったときに相談できる相手を決めておく。
こうした小さな積み重ねが、外国人社員にとって働きやすい職場をつくります。そして同時に、日本人社員にとっても、多様な人と働くための安心材料になります。
「採用できた」で終わらせないために
外国人社員を採用できたことは、会社にとって大きな一歩です。
しかし、本当に大切なのは、その人が入社後に力を発揮できる環境をつくれるかどうかです。優秀な人材であっても、日々の小さな違和感や孤立感が積み重なれば、会社を離れてしまうことがあります。
在留資格や労務手続きの準備と同じように、職場の受け入れ方にも準備が必要です。
外国人社員がいる職場では、国籍に関する話題、社会的なニュース、何気ない冗談や質問が、本人にどのように届くのかを考える必要があります。それは過度に気を使うということではなく、同じ職場で働く仲間として、相手を一人の社員として見るための基本的な姿勢です。
グローバルな会社になるということは、単に外国人社員が在籍しているということではありません。異なる背景を持つ人が、安心して働けるように、会社全体が少しずつ学び、変わっていくことです。
その意味で、外国人社員を受け入れるためのガイドラインを持つことは、特別な対応ではなく、これからの時代に合わせて会社が成長していくための一つの準備だといえます。