日本語学習を続けられないのは、特別なことではない
外国人社員の日本語力について、「採用した後も、なかなか伸びない」と感じている企業は少なくありません。
会社としては、仕事に必要な日本語を身につけてほしいと考えます。一方で、社員本人にとって、仕事が終わった後の時間は休息や私生活のための時間でもあります。
これは外国人社員に限ったことではありません。日本人であっても、毎日の仕事を終えた後に、継続して勉強の時間を確保することは簡単ではありません。
そのため、日本語を自発的に勉強しているかどうかだけを、本人の意欲や勤務態度の評価に結びつけるべきではありません。
企業が必要とする日本語力を伸ばしてもらうのであれば、本人の意思だけに任せるのではなく、日本語を学ぶ理由と、実際に使う機会を仕事の中に設ける必要があります。
資格手当だけでは、学習を継続しにくい
日本語能力試験の資格を取得した社員に、手当や昇給を設定している企業もあります。
資格取得に明確なメリットを設けること自体は、学習を始めるきっかけになります。しかし、試験に合格するまでの長い期間、学習を継続する動機としては十分でない場合があります。
また、日本語能力試験でN2を取得したからといって、すぐに社内報告や顧客対応を一人で行えるとは限りません。
資格は分かりやすい基準の一つですが、企業が本当に必要としているのは、仕事の中で日本語を使って報告し、相手の説明を理解し、自分の考えを伝えられる力です。
そのため、資格だけで評価するのではなく、実際の業務でどこまで一人で対応できるかも確認する必要があります。
日本語力を、仕事上の役割と待遇に結びつける
FirstStepでは、日本語力を仕事上の役割や待遇と結びつける仕組みを、企業が検討することを提案しています。
例えば、採用時点では日本語による報告や顧客対応を一人で行うことが難しく、周囲の社員による継続的な支援が必要になる場合があります。
その場合、企業は日本語力や一人で対応できる業務範囲を明確にし、その条件を給与や手当の設計に反映することが考えられます。
具体的には、N2取得や業務上必要な日本語力への到達を条件として、月額1万円から2万円程度の日本語能力手当を追加する方法があります。
重要なのは、すでに約束した給与から後になって差し引くことではありません。採用時に給与の構成、評価基準、手当が追加される条件を明確に説明し、本人が理解できる形で合意しておくことです。
日本語を学ぶことで何が変わるのかが具体的に見えれば、学習は漠然とした努力ではなく、自分の仕事と待遇に直接関係する課題になります。
ただし、N2だけを唯一の条件にする必要はありません。
日報を一人で作成できること、社内の打ち合わせに参加できること、他部署と直接調整できること、顧客との基本的なやり取りを任せられることなど、実際の業務に沿った基準を組み合わせることも必要です。
支援する社員の負担も、見えないままにしない
外国人社員の日本語力が十分でない時期には、周囲の社員による支援が必要になります。
指示を分かりやすく説明し直す、報告書を修正する、本人が内容を正しく理解したか確認する、顧客や他部署との間に入って対応するなど、支援には一定の時間がかかります。
こうした仕事が日常的に発生すると、支援する社員は自分の業務に加えて、別の責任を負うことになります。
企業が「同じ職場の仲間だから支援してほしい」とだけ伝え、支援にかかる時間や負担を考慮しなければ、本人の仕事が遅れたり、役割の不公平感が生まれたりする可能性があります。
そこでFirstStepでは、実際に支援を担当する社員に対して、支援手当を設ける方法も選択肢の一つとして提案しています。
これは、外国人社員を助けたことに対する謝礼ではありません。会社から任された追加の役割として、説明、確認、指導、コミュニケーション支援を行っていることへの対価です。
支援業務を正式な役割として認め、必要に応じて手当を支給することで、誰か一人の善意に負担を集中させることを防ぎやすくなります。
また、支援を受ける社員にとっても、自分のために周囲が時間を使っていることや、日本語力の向上によってその負担を減らせることが理解しやすくなります。
ただし、支援手当と外国人社員の給与を直接結びつけて、「外国人社員から差し引いた金額を日本人社員に渡す」と説明することは避けるべきです。
企業は、日本語力に応じた給与や能力手当と、支援担当者への役割手当を、それぞれ別の制度として明確に設計する必要があります。
日本語を日々の仕事の中で使う仕組みを作る
待遇と学習目標を結びつけるだけでなく、日本語を日常的に使う環境も必要です。
FirstStepが提案している方法の一つが、日本語による日報です。
毎日、自分が行った仕事、発生した問題、翌日の予定を日本語でまとめることで、社員は仕事に必要な言葉を継続して使うことになります。
日報を書くためには、作業内容を整理し、適切な言葉を選び、相手に伝わる形で文章にしなければなりません。
また、上司や支援担当者から短いフィードバックを受けることで、誤った表現や伝わりにくい書き方を、実際の業務の中で修正できます。
ただし、日報を提出させるだけでは十分ではありません。
毎回長い文章を求めたり、細かな文法ミスをすべて指摘したりすると、報告そのものが負担になります。
最初は定型文や簡単な項目を用意し、本人の日本語力に応じて少しずつ報告の範囲を広げていく方が現実的です。
日本語を学習時間だけで使うのではなく、毎日の仕事を進めるために使う状態を作ることが重要です。
日本語力の向上で、企業が得られるもの
外国人社員の日本語学習を支援することは、社員本人だけのためではありません。
むしろ、社員の日本語力が向上することで、企業が得られる利益は大きくなります。
社員が一人で指示を理解できるようになれば、上司や同僚が説明を繰り返す時間を減らせます。
報告や相談を日本語で行えるようになれば、周囲が文章を修正したり、代わりに説明したりする負担も小さくなります。
さらに、他部署との調整や顧客対応を任せられるようになれば、その社員が担当できる業務の範囲も広がります。
採用した社員が限られた作業だけを担当し続けるのではなく、経験に応じてより多くの役割を担えるようになることは、企業にとって人材活用の面でも大きな意味があります。
だからこそ、日本語学習への支援は、外国人社員に対する一方的な福利厚生ではありません。業務の効率を高め、周囲の負担を減らし、採用した人材が長期的に活躍できる状態を作るための投資です。
社員に日本語力の向上を求めるのであれば、企業もまた、そのための環境、評価基準、業務上の機会を準備する必要があります。
在籍年数だけでは、仕事で使える日本語は身につかない
日本で長く働いていれば、自然に仕事で使える日本語が身につくとは限りません。
業務中に日本語を使う場面が少ない場合や、難しい報告や顧客対応を常に周囲の社員が代わりに行っている場合、数年間働いていても本人が直接対応する力は伸びにくくなります。
問題は、外国人社員が努力していないことだけではありません。
日本語を使わなくても仕事が完了する環境では、本人が学習の必要性を感じにくく、実際に練習する機会も生まれません。
企業が期待する日本語力を明確にし、その力を使う業務を少しずつ任せ、待遇や役割にも反映する。同時に、支援する社員の負担も正式な仕事として評価する。
この二つを組み合わせることで、日本語学習を本人任せにせず、企業の人材育成と職場運営の仕組みとして考えられるようになります。
参考資料
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