住居支援は必須ではないが、採用の壁を下げることがある
外国人社員を採用する場合、企業は必ず寮を準備しなければならないのでしょうか。
答えは、単純に「必要」「不要」と分けられるものではありません。すでに会社の近くに住んでいる応募者にとっては、住居支援が採用判断に大きく影響しない場合もあります。
一方、遠方から転居しなければならない人や、勤務地周辺に住居を持っていない人にとっては、住まいの確保が入社を決断するうえで大きな障壁になることがあります。
そのため、寮をすべての外国人社員に対する恒常的な福利厚生として考えるのではなく、入社直後の負担を軽減するための一時的な支援として検討する方法もあります。
重要なのは、寮を用意するかどうかだけではありません。応募者が抱える住居面のリスクと、企業側の固定費リスクをどのように抑えるかという視点です。
採用が決まっても、すぐに転居できるとは限らない
日本で賃貸住宅を契約する際には、毎月の家賃だけでなく、敷金、礼金、仲介手数料、保証会社の利用料、火災保険料など、複数の初期費用が必要になる場合があります。
さらに、遠方から転居する場合には、引っ越し費用や家具、家電、生活用品をそろえるための費用も発生します。
仕事が安定した後であれば、こうした費用を新しい生活のための必要経費として受け入れられるかもしれません。しかし、まだ試用期間が始まっておらず、その職場で継続して働けるかどうかも分からない段階で、長期の賃貸契約を結ぶことは、応募者にとって小さくないリスクです。
仮に試用期間中に雇用が終了したり、業務との適性が合わなかったりした場合でも、家賃や契約上の費用は残ります。再び転居が必要になれば、追加の費用も発生します。
そのため、応募者が住居契約に慎重になることは、必ずしも入社意欲が低いことを意味しません。今回のようなケースでは、仕事がまだ安定していない段階で大きな固定費を抱えることに不安を感じていると考えるほうが自然です。
住居があることで、入社を決断しやすくなる場合がある
企業が住居を準備したからといって、それだけで採用が成功するわけではありません。給与、仕事内容、労働条件、職場環境、将来のキャリアなどが重要であることに変わりはありません。
ただし、仕事内容や条件には納得しているものの、転居費用や住居契約が理由で入社を迷っている応募者に対しては、一定期間利用できる住居があることで、最初の一歩を踏み出しやすくなる場合があります。
応募者は、仕事を始める前にまとまった初期費用を準備する必要がなくなります。また、短期間で慌てて物件を探し、十分に確認しないまま契約することも避けやすくなります。
特に、地方から転居する人、日本に来て間もない人、勤務地周辺の住宅事情をよく知らない人にとっては、住居支援が採用条件の一つとして意味を持つことがあります。
ただし、住居を用意すれば採用率が必ず大きく上がる、と一律に考えるべきではありません。影響の大きさは、勤務地、職種、応募者の生活状況、在留資格、採用条件などによって異なります。
より現実的には、住居が原因で入社を決断できない応募者がいる場合に、その障壁を企業側が取り除ける可能性があると考えるのが適切です。
大規模な社員寮を用意する必要はない
「外国人社員のために寮を準備する」と聞くと、社員ごとに部屋を用意したり、複数の物件を長期間借りたりすることを想像する企業もあるかもしれません。
しかし、必ずしも大規模な社員寮を用意する必要はありません。
例えば、勤務地の近くに2部屋程度の物件を1戸借り、入社直後や試用期間中の一時的な住居として利用する方法があります。複数の社員が一定期間共同で利用し、仕事や生活が安定した後に、それぞれが希望する物件へ転居する形です。
この場合、企業が不動産を所有する必要はありません。採用人数や利用頻度に合わせて、必要最小限の物件を借りることができます。
また、利用人数、利用期間、退去条件、共有部分の使い方などを事前に決めておけば、恒久的な福利厚生ではなく、入社時の移行期間を支える仕組みとして運用できます。
つまり、検討すべきことは「正式な社員寮制度を導入するかどうか」だけではありません。「入社直後の一定期間、安心して仕事を始められる住居を準備する必要があるか」という視点で考えることもできます。
企業側には固定費のリスクがある
住居支援は応募者の負担を減らす一方で、企業には新たな費用が発生します。
物件契約時の初期費用、毎月の家賃、更新費用、保険料、家具や家電の購入費、修繕費などが必要になる場合があります。
また、常に利用者がいるとは限りません。採用がない時期や、入居者が退去した後には、空室であっても家賃を支払い続ける必要があります。
利用者が決まってから物件を探す方法では、入社日までに準備が間に合わない可能性があります。一方で、常に部屋を確保しておけば、空室期間の固定費が増えます。
そのため、企業は採用頻度、年間の採用人数、勤務地、平均利用期間などを確認したうえで、維持可能な規模を検討する必要があります。
初めから複数の物件を借りるのではなく、まずは小規模な物件を1戸だけ準備し、複数の社員が順番に利用する方法もあります。
実際の利用状況を確認しながら、継続するか、縮小するか、拡大するかを判断するほうが、企業側のリスクを抑えやすくなります。
費用負担の仕組みは明確にする必要がある
企業が住居を用意する場合、すべての費用を企業が負担しなければならないとは限りません。利用する社員から一定の家賃や利用料を受け取り、企業と社員で費用を分担することも考えられます。
ただし、単純に毎月の家賃だけを人数で割ればよいとは限りません。
物件契約時の初期費用、家具や家電、インターネット、共有部分の光熱費、空室期間の費用などをどのように扱うかを事前に整理する必要があります。
企業が一定の初期費用や空室リスクを負担し、その一部を実際の利用者が支払う住居費に含める方法もあります。
ただし、その場合は、何のための費用なのか、どのように金額を算出しているのかを社員に説明できるようにしなければなりません。
企業が住居を準備する目的は、不動産事業で利益を得ることではありません。入社直後の住居負担を軽減し、採用と就業開始を円滑にすることが目的です。
そのため、実際に発生する費用に基づいて合理的な金額を設定し、企業が不当に利益を得ているように見えない仕組みにすることが重要です。
給与から住居費を控除する場合は注意が必要
社員が負担する住居費を給与から直接控除する場合、企業が任意に金額を差し引けるわけではありません。
労働基準法では、賃金は原則として全額を労働者に支払うことが定められています。
税金や社会保険料など法律上認められているもの以外を給与から控除する場合には、労使協定など、適切な手続きが必要になることがあります。
住居費や寮費を控除する場合も、金額、対象となる費用、控除の時期、計算方法などを明確にする必要があります。
入居後に突然、「家賃や初期費用を給与から差し引く」と伝える運用は避けるべきです。
入居を決める前に、社員が負担する金額、家賃に含まれるもの、光熱費の扱い、利用期間、退去条件などを書面で説明する必要があります。
外国人社員の場合、日本語だけでは内容を十分に理解できないこともあります。必要に応じて、母語や分かりやすい言葉で補足することも重要です。
実際に給与控除を行う場合には、社会保険労務士や労働基準監督署などに確認し、適切な手続きを取ることが望まれます。
住居の利用を強制しない
会社が住居を用意したとしても、すべての外国人社員がその住居を利用したいとは限りません。
一人で暮らしたい人、家族と同居したい人、自分で勤務地や駅からの距離を考えて住む場所を選びたい人もいます。また、共同生活が苦手な人や、生活時間が他の社員と大きく異なる人もいます。
そのため、企業が準備する住居は、原則として選択できる支援制度として扱うほうが望ましいでしょう。
住居を利用しないことが、採用や人事評価に不利に影響するような運用は避ける必要があります。
共同住宅として利用する場合には、掃除、騒音、共有スペース、来客、喫煙、ゴミ出し、設備の破損などについても、事前にルールを決めておく必要があります。
ルールを準備する目的は、社員を過度に管理することではありません。共同生活における認識の違いを減らし、入居者同士や企業とのトラブルを防ぐためです。
入居前に費用と生活ルールを説明し、本人が納得したうえで利用を決められる状態を作ることが重要です。
FirstStepが稲毛エリアで行っている住居支援
FirstStepが求職者を支援する中でも、仕事内容や採用条件には問題がないものの、勤務地への転居が必要なため、応募や入社を迷うケースがあります。
そこでFirstStepでは、稲毛エリアの企業へ応募する一部の求職者を支援するために、利用可能な住居を1戸準備しています。
この住居は、長期間の居住を前提とした社員寮ではありません。採用後、求職者が仕事を始める際に、一時的に生活できる場所として利用することを目的としています。
これにより、求職者は入社前に高額な初期費用を負担して、すぐに自分名義の賃貸住宅を契約する必要がなくなります。
試用期間が終わり、仕事や収入が安定した後には、自分の希望に合った住居を探して転居することができます。一方、本人の希望や部屋の利用状況などの条件が合えば、そのまま住み続けることも選択肢の一つです。
この方法が、すべての企業や地域に適しているとは限りません。
ただし、外国人採用における住居支援は、最初から大規模な寮制度として始める必要はないという一つの事例です。
特定の勤務地、限られた人数、明確な利用期間から始め、実際のニーズと費用を確認しながら運用方法を見直すことができます。
考えるべきなのは、寮の有無だけではない
外国人社員を採用するすべての企業に、寮の準備が必要なわけではありません。
しかし、勤務地への転居が必要な採用では、住居の確保が入社の可否に影響することがあります。
企業は、「何も支援しない」か、「すべての社員に長期間の住居を提供する」かの二つだけから選ぶ必要はありません。
小規模な物件を一時的な住居として用意し、試用期間や入社直後に限定して利用してもらう方法もあります。
利用期間、費用負担、給与控除の手続き、生活ルール、本人の選択権を明確にすれば、応募者のリスクを軽減しながら、企業側の固定費も一定範囲に抑えやすくなります。
大切なのは、住居を準備すること自体を目的にしないことです。採用したい人材が住居の問題によって入社できない場合に、その障壁を取り除くための手段として必要かどうかを検討することが重要です。
参考資料
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