日本企業が苦労するポイントを分析
「弱み」は個人の欠点ではなく、受け入れ時につまずきやすいポイント
ベトナム人材を採用する日本企業が増える中で、現場からは「思ったよりコミュニケーションが難しい」「報告が遅れることがある」「わからないまま作業を進めてしまう」といった声が聞かれることがあります。
ただし、ここでいう「弱み」は、ベトナム人材一人ひとりの能力不足を指すものではありません。日本企業がベトナム人材を受け入れる際に、現場で起きやすいすれ違いや、支援が必要になりやすいポイントとして捉える必要があります。
実際には、理由を理解すれば企業側の工夫で改善できる部分も多くあります。大切なのは、「ベトナム人材は難しい」と決めつけることではなく、どこでつまずきやすいのかを事前に理解し、受け入れの仕組みを整えることです。
最大の壁は「日本語コミュニケーション」
企業が最も課題として挙げるのが、日本語コミュニケーション能力です。特に現場で問題になりやすいのは、敬語、曖昧表現、空気を読む文化、報連相などです。
ただし、これは単に日本語の語彙や文法の問題だけではありません。仕事の現場では、指示の意図を理解すること、曖昧な表現の意味を確認すること、どこまで自分で判断してよいのかを見極めること、問題が起きた時に早めに報告することが求められます。
つまり、企業が感じる「日本語の問題」の中には、実際には「業務理解の問題」や「確認の仕方の問題」も含まれています。日本語試験の点数が高くても、現場での指示、報告、相談に慣れていなければ、すれ違いは起こります。
たとえば、「なるべく早めにお願いします」「できる範囲で対応してください」「一応確認しておいてください」といった表現は、日本人同士であれば文脈から判断できることもあります。しかし、外国人材にとっては、期限や優先順位、求められる完成度がはっきりしない場合があります。
そのため、ベトナム人材を受け入れる企業には、「日本語ができるかどうか」だけで判断するのではなく、「仕事を進めるためのコミュニケーション」をどう設計するかという視点が必要になります。
なぜ「はい」と答えるのか
企業側からは、「わからなくても『はい』と言う」「相談せずに自己判断する」「問題の報告が遅れる」といった声が出ることがあります。
しかし、これも単純に本人の性格や能力の問題として見るべきではありません。現場では、わからないと言うと叱られるのではないか、評価が下がるのではないか、迷惑をかけるのではないかと考え、質問をためらってしまうことがあります。
特に入社初期は、上司や先輩との関係性もまだできていません。日本語に自信がない状態で、「もう一度説明してください」「よくわかりません」と言うのは、本人にとって思っている以上に勇気がいることです。
そのため、「わかった?」と聞いて「はい」と返ってきたからといって、必ずしも内容を完全に理解しているとは限りません。むしろ企業側は、「次に何をするか説明してもらう」「わからない点がないか具体的に確認する」「小さな質問でも歓迎する」といった工夫をした方が、認識のずれを防ぎやすくなります。
相談しやすい職場の雰囲気が、報連相を変える
報連相がうまくいくかどうかは、本人の日本語力だけで決まるものではありません。職場に「聞いても大丈夫」「早めに相談しても責められない」という空気があるかどうかで、報告や相談のしやすさは大きく変わります。
もし、質問した時に強く叱られたり、忙しそうに対応されたりすると、次からは聞きづらくなります。反対に、最初から上司や先輩が丁寧に確認し、質問しやすい雰囲気を作っていれば、わからない時に早めに声をかけやすくなります。
これはベトナム人材だけに限った話ではありません。日本人の若手社員でも、職場の雰囲気によって相談のしやすさは変わります。外国人材の場合は、そこに言語や文化の違いも重なるため、より意識的に環境を整える必要があります。
企業側が「なぜ報告しなかったのか」と後から責めるだけでは、同じ問題が繰り返されやすくなります。大切なのは、問題が小さいうちに相談できる関係を作ることです。
地方で起きやすい孤独の問題
ベトナム人材の定着を考える上では、仕事中のコミュニケーションだけでなく、生活環境も重要です。特に地方では、同国コミュニティが少ない、休日に行く場所が少ない、日本語を使う機会が限られるなど、孤独を感じやすい状況があります。
北海道や東北などでは、冬の寒さや雪、移動の不便さがストレスになることもあります。都市部であれば同じ国の友人や知人とつながりやすくても、地方では相談できる相手が限られる場合があります。
このような孤独感は、仕事への不満とは別のところで、定着に影響することがあります。仕事自体に大きな問題がなくても、生活の中で孤立してしまえば、「この地域で長く働き続けるのは難しい」と感じる可能性があります。
そのため、地方で外国人材を受け入れる企業は、住まいの手配だけでなく、生活面で相談できる窓口、地域とのつながり、休日の過ごし方、日本語学習の機会なども含めて支援を考える必要があります。
SNS時代に変わる「会社の選ばれ方」
近年は、Facebook、TikTok、Zaloなどを通じて情報収集する若者が増えています。求人票や面接だけで会社を判断するのではなく、実際に働いている人の声、職場の評判、給与、働き方、トラブル事例なども簡単に共有されるようになりました。
これは、単に「若者がSNSに影響されやすい」という話ではありません。情報環境そのものが変わり、企業と求職者の間にあった情報格差が小さくなっているということです。
以前であれば、会社の内部情報や働き方の実態は外から見えにくいものでした。しかし今は、良い評判も悪い評判も、コミュニティの中で広がりやすくなっています。特に外国人材の場合、同じ国のネットワークを通じて情報が共有されることも少なくありません。
そのため、企業は外国人材を「選ぶ側」であると同時に、外国人材から「選ばれる側」にもなっています。採用条件だけでなく、入社後の対応、相談しやすさ、生活支援、職場の雰囲気も、企業の評価につながる時代になっています。
世代差によるコミュニケーションギャップも重なる
職場でのすれ違いは、国籍だけで起きるものではありません。今の企業には、若い世代、ベテラン世代、管理職、外国人材など、異なる背景を持つ人たちが一緒に働いています。
スマートフォンやSNSが当たり前の世代と、対面で覚える、現場で見て学ぶ、空気を読むことを重視してきた世代では、情報の受け取り方や確認の仕方が異なることがあります。
たとえば、若い世代はチャットや短いメッセージで確認することに慣れている一方で、年上の社員は直接聞きに来ることを重視する場合があります。外国人材がそこに加わると、言語の違いだけでなく、世代差によるコミュニケーションの違いも重なります。
だからこそ、企業側には「なぜ伝わらないのか」を一方的に相手の問題にするのではなく、伝え方、確認の仕方、相談の場を見直す姿勢が求められます。
「大変」には理由がある
ベトナム人材の採用や定着は、何も準備しないまま進めると大変に感じることがあります。日本語が思ったより伝わらない、報告が遅れる、地方で孤独を感じる、SNSで会社の評判が共有されるなど、企業側が戸惑う場面もあります。
しかし、それらの多くには理由があります。日本語力だけの問題ではなく、指示の出し方、確認の仕方、相談しやすい職場の雰囲気、生活環境、情報収集の変化が関係しています。
原因がわかれば、対応できることも増えます。指示を具体的にする、本人に理解内容を確認してもらう、質問しやすい雰囲気を作る、生活面の孤立に気づく、外国人材からも選ばれる会社づくりを意識する。こうした工夫によって、必要以上に難しく考えずに受け入れを進めることができます。
大切なのは、弱みを決めつけることではありません。つまずきやすいポイントを先に理解し、企業側が受け入れの仕組みを作ることです。